意図
この達成基準の意図は、障害のある利用者が、元の状態に戻すことのできない動作を実行するときのミスによる重大な結果を回避するのを助けることである。例えば、払い戻し不可の航空券の購入、又は証券取引口座での株購入の注文は、重大な結果につながる金銭的な取引である。利用者が発着日を間違えれば、その利用者は交換できない誤った日付の航空券を購入したことになってしまう。利用者が購入する株式の数を間違えると、意図した数よりも多くの株式を購入したことになってしまう。どちらのミスも、すぐに処理される取引であり、後から変更することはできないものであり、また非常に高価である。同様に、旅行サービスのウェブサイトにある旅行履歴のように、後からアクセスする必要のあるデータベースのデータを無意識に修正又は削除してしまった場合、そのエラーは回復不能なことがある。「利用者が自分で制御可能な」データの変更又は削除を参照する場合、この達成基準の意図は、ファイル又はレコードの削除のようなデータの大量損失を防ぐことである。保存のコマンド又は、ドキュメント、レコード、もしくはその他データの単純な作成もしくは編集に対して、確認を必要とすることを意図するものではない。
障害のある利用者は、ミスをしてしまう可能性が高い。例えば、読字障害のある利用者は、数字と文字を取り違えてしまうことがある。そして、運動障害のある利用者は間違ってキーを押してしまうことがある。元の状態に戻せるようにすることによって、利用者が重大な結果につながる恐れのあるミスを修正できるようになる。また、入力内容を確認して修正できるようにすることで、重大な結果につながることをしてしまう前に、利用者がミスに気づくことができるようになる。
利用者が自分で制御可能なデータというのは、利用者が意図的行為を通して変更及び/又は削除できる利用者が閲覧可能なデータである。そのようなデータを制御する利用者の例としては、利用者のアカウントの電話番号及び住所を更新する、又はウェブサイトから過去の請求書のレコードを削除することが挙げられる。これは、利用者が直接に表示又は情報交換できないインターネットのログ又は検索エンジンの監視データのようなものを指すものではない。
メリット
- ミスによる重大な結果を未然に防ぐ手段を提供することによって、ミスをする可能性の高い障害のある利用者すべてに役立つ。
事例
注文内容の確認
ある小売店がウェブでオンラインショッピングのサービスを顧客に提供している。注文が送信されると、利用者が注文内容に間違いがないかを確認できるように、注文した商品、各商品の数、送り先の住所、支払方法などの注文情報が表示される。利用者は、注文内容を確認したり、変更したりすることができる。
株式売買
ある金融サービスのウェブサイトで、利用者は株をオンラインで売買できる。利用者が株の売買の注文を送信すると、システムは市場が開いているかどうかを確認する。時間外だった場合は、利用者にその取引が時間外取引になることを知らせて、通常の取引時間外であることに伴うリスクについても伝える。そして、利用者はその注文をキャンセルするか、確認することができる。
達成方法
この節にある番号付きの各項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する達成方法、又は複数の達成方法の組み合わせを表している。しかしながら、必ずしもこれらの達成方法を用いる必要はない。その他の達成方法についての詳細は、WCAG 達成基準の達成方法を理解するの「その他の達成方法」を参照のこと。
十分な達成方法
そのコンテンツに合致する状況を以下から選択すること。それぞれの状況には、WCAG ワーキンググループがその状況において十分であると判断する、番号付の達成方法 (又は、達成方法の組み合わせ) がある。
状況 A: アプリケーションで、購入又は所得税申告の提出のように、法的なトランザクションが発生する場合:
状況 B: 利用者のアクションによって情報が削除される可能性がある場合:
状況 C: ウェブページに試験を実施するアプリケーションがある場合:
参考達成方法
適合のために必須ではないが、コンテンツをよりアクセシブルにするために、次の追加の達成方法を検討することが望ましい。ただし、すべての状況において、すべての達成方法が使用可能、又は効果的であるとは限らない。
重要な用語
ユーザエージェントとして機能する、又は主流のユーザエージェントと一緒に機能するハードウェア及び/又はソフトウェアで、主流のユーザエージェントで提供されている機能以上の機能を、障害のある利用者の要求を満たすために提供するもの。
支援技術が提供する機能としては、代替の提示 (例: 合成音声や拡大表示したコンテンツ)、代替入力手法 (例: 音声認識)、付加的なナビゲーション又は位置確認のメカニズム、及びコンテンツ変換 (例: テーブルをよりアクセシブルにするもの) などを挙げることができる。
支援技術は、API を利用、監視することで、主流のユーザエージェントとデータやメッセージのやりとりをすることが多い。
主流のユーザエージェントと支援技術との区別は、絶対的なものではない。多くの主流のユーザエージェントは、障害者を支援する機能を提供している。基本的な差異は、主流のユーザエージェントが障害のある人もない人も含めて、広く多様な利用者を対象にしているのに対し、支援技術は、特定の障害のある利用者という、より狭く限られた人たちを対象にしているということである。支援技術により提供される支援は、対象とする利用者に特化した、よりニーズに適したものである。主流のユーザエージェントは、プログラムオブジェクトからのウェブコンテンツの抽出、マークアップの識別可能な構造への解釈といった、重要な機能を支援技術に対して提供する場合がある。
この文書の文脈において重要な支援技術としては、以下のものが挙げられる:
- 画面拡大ソフト及びその他の視覚的な表示に関する支援技術。視覚障害、知覚障害、及び読書困難などの障害のある人が、レンダリング後のテキスト及び画像の視覚的な読みやすさを改善するために、テキストのフォント、サイズ、間隔、色、音声との同期などを変更するのに使用している。
- スクリーンリーダー。全盲の人がテキスト情報を合成音声あるいは点字で読み取るために使用している。
- 音声変換ソフトウェア。認知障害、言語障害、及び学習障害のある人が、テキストを合成音声に変換するために使用している。
- 音声認識ソフトウェア。何らかの身体障害のある利用者が使用することがある。
- 代替キーボード。特定の身体障害のある人がキーボード操作をシミュレートするのに使用している (ヘッドポインタ、シングルスイッチ、呼気・吸気スイッチ、及びその他の特別な入力デバイスを使った代替キーボードを含む)。
- 代替ポインティングデバイス。特定の身体障害のある人がマウスポインタとボタンの動きをシミュレートするのに使用している。
法的に拘束力のある義務あるいは利益が発生する取引。
結婚許可証、株取引 (金銭上及び法的)、遺言、ローン、採用、軍隊への入隊登録、あらゆる契約、など。
ウェブコンテンツを取得して利用者に提示するあらゆるソフトウェア。
ウェブコンテンツの取得、レンダリング及びインタラクションを支援する、ウェブブラウザ、メディアプレーヤ、プラグイン、及びその他のプログラム (支援技術も含む)。
利用者によってアクセスされることを意図したデータ。
これは、インターネットのログ、検索エンジンの監視データなどを指すものではない。
利用者のアカウントのための氏名及び住所のフィールド。
単一の URI から HTTP で得た埋め込まれていないリソースに加え、レンダリングに使われる、又はユーザエージェントがこのリソースと一緒にレンダリングすることを意図しているその他のあらゆるリソースを合わせたもの。
どのような「その他のリソース」も主たるリソースと一緒にレンダリングされるであろうが、これらのリソースが同時にレンダリングされるとは限らない。
このガイドラインの適合範囲に含まれる対象となるウェブページとみなされるためには、リソースが「埋め込まれていない」リソースでなければならない。
単体のウェブリソースであり、埋め込まれている画像及びメディアのすべてを含んだもの。
Asynchronous JavaScript and XML (AJAX) を用いたウェブメールのプログラム。そのプログラム全体は http://example.com/mail に存在しているが、受信トレイ、連絡先、カレンダーがある。受信トレイ、連絡先、又はカレンダーを表示するリンク又はボタンが提供されているが、全体としてページの URI は変更されない。
カスタマイズ可能なポータルサイトで、利用者が様々なコンテンツモジュールのセットから表示させるコンテンツを選択できるようなもの。
ブラウザで "http://shopping.example.com/" へ行くと、映画のようなインタラクティブなショッピング環境になる。そこでは、視覚的に店内を移動して、店内の棚から商品をドラッグして、目の前にある視覚的な買物カゴに商品を入れる。商品をクリックすると、同時に仕様書が浮き上がるように表示される。これは 1 ページだけのウェブサイトかもしれないし、ウェブサイトの中のほんの 1 ページなのかもしれない。