意図
この達成基準の意図は、コンテキストの変化を利用者が完全に制御できるようなウェブコンテンツの設計を推奨することである。この達成基準は、自動的に開く新しいウィンドウ、リストから項目を選択すると自動的に送信されるフォームなどのように、予期しないコンテキストの変化によって混乱が引き起こされる可能性を取り除くことを狙いとしている。そのような予期しないコンテキストの変化により、運動障害のある人、ロービジョンの人、全盲の人、及び特定の認知能力の低下している人には困難が生じてしまう恐れがあるからである。
コンテキストの変化の中には、利用者を混乱させず、むしろ利用者に前向きな利益をもたらす種類のものもある。例えば、単一のスイッチの利用者は、システムによってアニメートされるコンテキストの変化に依存しているし、ロービジョンの利用者の好みは、一度にどれくらいのコンテンツを見ることができるか、どれくらいのセッション構造が作業記憶に残るかに依存している。スライドショーなどの、一部の種類のコンテンツは、意図したユーザエクスペリエンスを提供するために、コンテキストの変化を必要とする。利用者の設定が許可されている場合にのみ、自動的にコンテキストの変化を開始するコンテンツは、この達成基準に適合することができる。
複数のコンテキストの変化を同時に引き起こすことが可能である。例えば、自動的に新規ウィンドウが開くリンクをクリックするのは、コンテンツの変化に関連するコンテキストの変化であり、表示域(ウィンドウ)の変化に関連するコンテキストの変化でもある、2つに分かれた変化の一例である。この場合のコンテンツの変化は、利用者がリンクをクリックした時、彼らの要求によって開始されるが、新規ウィンドウが開くことに利用者が気づかない限り、コンテキストの変化は利用者が開始したとはみなせない。
メリット
コンテキストの変化を見つけることができない、又は状況が変化したことに気づかない利用者が、サイトをナビゲートしている間に混乱した状態になりにくい。例えば:
- 全盲の利用者、又はロービジョンの利用者は、新しいウィンドウがポップアップで開くなどのように、視覚的なコンテキストの変化がいつ起こるのかを把握するのが困難なことがある。この場合、前もって利用者にコンテキストの変化が起こることを知らせておくと、利用者が「戻る」ボタンがいつものように動作しないことに気づいたときの混乱を最小限に抑えることができる。
- ロービジョンの利用者、読字及び知的障害のある利用者、そして視覚的な手がかりを解釈しづらい利用者は、コンテンツ制作者が手がかりを追加することによって、コンテキストの変化に気づくようになる。
- ブラウザの代わりにウェブサーバーによって自動的なリダイレクトが実行されると、特定の認知制限を持つ人が混乱しないですむ。
事例
「今、更新する」ボタン
コンテンツを自動的に更新するかわりに、コンテンツ制作者は、コンテンツの更新を要求する「今、更新する」ボタンを提供している。
自動リダイレクト
利用者は、リダイレクトが起こったことに絶対気づかない方法で、古いページから新しいページへ自動的にリダイレクトされる。
関連リソース
リソースは、情報提供のみを目的としており、推奨を意味するものではない。
- Use standard redirects: don't break the back button! (W3C QA Tip).
- HTTP/1.1 Status Code Definitions: Redirection 3xx.
訳注
上記の HTTP/1.1 は RFC 2616 を参照しているが、現在の HTTP ステータスコードは RFC 7231 で更新、定義されている。RFC 7231§6.4.Redirection 3xx も参照のこと。
達成方法
この節にある番号付きの各項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する達成方法、又は複数の達成方法の組み合わせを表している。しかしながら、必ずしもこれらの達成方法を用いる必要はない。その他の達成方法についての詳細は、WCAG 達成基準の達成方法を理解するの「その他の達成方法」を参照のこと。
十分な達成方法
そのコンテンツに合致する状況を以下から選択すること。それぞれの状況には、WCAG ワーキンググループがその状況において十分であると判断する、番号付の達成方法 (又は、達成方法の組み合わせ) がある。
状況 A: ウェブページが自動更新を行う場合:
状況 B: 自動リダイレクトが可能な場合:
状況 C: ウェブページがポップアップウィンドウを用いる場合:
次の達成方法の一つを用いてポップアップウィンドウを表示する:
状況 D: select 要素上で onchange イベントを用いる場合:
参考達成方法
適合のために必須ではないが、コンテンツをよりアクセシブルにするために、次の追加の達成方法を検討することが望ましい。ただし、すべての状況において、すべての達成方法が使用可能、又は効果的であるとは限らない。
失敗例
以下に挙げるものは、WCAG ワーキンググループが達成基準の失敗例とみなした、よくある間違いである。
- F60: 達成基準 3.2.5 の失敗例 - 利用者が入力フィールドにテキストを入力したときに新しいウィンドウを開く
- F61: 達成基準 3.2.5 の失敗例 - 利用者がコンテンツの中から無効にできない自動的な更新によってメインコンテンツの変更を完了する
- F9: 達成基準 3.2.5 の失敗例 - 利用者がフォーカスをフォーム要素から移動するときにコンテキストを変化させる
- F22: 達成基準 3.2.5 の失敗例 - 利用者が要求していないウィンドウを開く
- F52: 達成基準 3.2.1 の失敗例 - 新しいページを読み込むのと同時に、新しいウィンドウを開いている
- F40: 達成基準 2.2.1 及び達成基準 2.2.4 の失敗例 - 制限時間付きの meta 要素リダイレクトを使用している
- F41: 達成基準 2.2.1、達成基準 2.2.4、及び達成基準 3.2.5 の失敗例 - ページを再読み込みするために、meta 要素リフレッシュを使用している
重要な用語
障害のある利用者の要件を満たすために、主流のユーザエージェントが提供する機能を超えた機能を提供するような、ユーザエージェントとして動作する、又は主流のユーザエージェントと共に動作するハードウェア及び/又はソフトウェア。
支援技術が提供する機能としては、代替の提示 (例: 合成音声や拡大表示したコンテンツ)、代替入力手法 (例: 音声認識)、付加的なナビゲーション又は位置確認のメカニズム、及びコンテンツ変換 (例: テーブルをよりアクセシブルにするもの) などを挙げることができる。
支援技術は、API を利用、監視することで、主流のユーザエージェントとデータやメッセージのやりとりをすることが多い。
主流のユーザエージェントと支援技術との区別は、絶対的なものではない。多くの主流のユーザエージェントは、障害のある個人を支援する機能を提供している。基本的な差異は、主流のユーザエージェントが障害のある人もない人も含めて、広く多様な利用者を対象にしているのに対し、支援技術は、特定の障害のある利用者という、より狭く限られた人たちを対象にしているということである。支援技術により提供される支援は、対象とする利用者に特化した、よりニーズに適したものである。主流のユーザエージェントは、プログラムオブジェクトからのウェブコンテンツの抽出、マークアップの識別可能な構造への解釈といった、重要な機能を支援技術に対して提供する場合がある。
この文書の文脈において重要な支援技術としては、以下のものが挙げられる:
- 画面拡大ソフト及びその他の視覚的な表示に関する支援技術。視覚障害、知覚障害、及び読書困難などの障害のある人が、レンダリング後のテキスト及び画像の視覚的な読みやすさを改善するために、テキストのフォント、サイズ、間隔、色、音声との同期などを変更するのに使用している。
- スクリーンリーダー。全盲の人がテキスト情報を合成音声あるいは点字で読み取るために使用している。
- 音声変換ソフトウェア。認知障害、言語障害、及び学習障害のある人が、テキストを合成音声に変換するために使用している。
- 音声認識ソフトウェア。何らかの身体障害のある利用者が使用することがある。
- 代替キーボード。特定の身体障害のある人がキーボード操作をシミュレートするのに使用している (ヘッドポインタ、シングルスイッチ、呼気・吸気スイッチ、及びその他の特別な入力デバイスを使った代替キーボードを含む)。
- 代替ポインティングデバイス。特定の身体障害のある人がマウスポインタとボタンの動きをシミュレートするのに使用している。
大きな変化で、利用者が気づかないと、ウェブページ全体を一度に見ることのできない利用者を混乱させる恐れのあるもの。
コンテキストの変化には次に挙げるものの変化が含まれる:
コンテンツの変化が、必ずコンテキストの変化になるとはかぎらない。アウトラインの展開、動的なメニュー、又はタブの切替などのコンテンツの変化は、それが上記のいずれか (例: フォーカス) を変更しないかぎり、状況を変化させるとは限らない。
新しいウィンドウを開くこと、フォーカスを異なるコンポーネントへ移動させること、新しいウェブページへ移動すること (新しいウェブページへ移動したかのように思わせてしまうことも含む)、又はウェブページの内容を大きく再配置することなどは、コンテキストの変化の事例である。
与えられた規格、ガイドライン、又は仕様のすべての要件を満たすこと。
コンテンツの構造、提示、及びインタラクションを定義するコード又はマークアップも含めて、ユーザエージェントによって利用者に伝達される情報及び感覚的な体験。
結果を得るためのプロセス又は手法。
メカニズムは、宣言する適合レベルのすべての達成基準を満たさなければならない。
利用者が知覚できる形式でコンテンツをレンダリングすること。
ある活動を完了させるために必要な利用者の一連の動作。
ショッピングサイト上の一連のウェブページで目的を果たすためには、利用者が選択肢となりうる製品、価格及び内容を閲覧した後、製品を選択して発注し、配送先情報及び支払情報を提供する必要がある。
アカウント登録ページでは、登録フォームにアクセスする前にチューリングテストに成功する必要がある。
ユーザエージェントがどのようにレンダリング、再生、又は実行するかを符号化するメカニズム。
このガイドラインで用いられている「ウェブ技術」及び (単独で用いられている) 「技術」という用語は、どちらもウェブコンテンツ技術を指す。
ウェブコンテンツ技術には、マークアップ言語、データ形式、及びプログラム言語などがあり、これらをコンテンツ制作者が単独で、又は組み合わせて用いることによって、静的なウェブページや同期したメディアによる提示、さらには動的なウェブアプリケーションに至るまでの様々なエンドユーザ体験を作ることができる。
ウェブコンテンツ技術のよくある事例としては、HTML、CSS、SVG、PNG、PDF、Flash、 JavaScript などがある。
ウェブコンテンツを取得して利用者に提示するあらゆるソフトウェア。
ウェブブラウザ、メディアプレーヤ、プラグイン、及びその他のプログラム。その他のプログラムには、ウェブコンテンツの取得、レンダリング、やり取りを支援する支援技術を含む。
ユーザエージェントがコンテンツを提示するオブジェクト。
ユーザエージェントは、一つ以上のビューポートでコンテンツを提示する。ビューポートには、ウィンドウ、フレーム、スピーカー、拡大鏡ソフトなどがある。ビューポートは、他のビューポートを含んでいることがある (例えば、入れ子のフレーム)。プロンプト、メニュー、アラートのように、ユーザエージェントが作成するインタフェース コンポーネントは、ビューポートではない。
この定義は、User Agent Accessibility Guidelines 1.0 Glossary [UAAG10] をもとにしている。
単一の URI から HTTP で得た埋め込まれていないリソースに加え、レンダリングに使われる、又はユーザエージェントがこのリソースと一緒にレンダリングすることを意図しているその他のあらゆるリソースを合わせたもの。
どのような「その他のリソース」も主たるリソースと一緒にレンダリングされるであろうが、これらのリソースが同時にレンダリングされるとは限らない。
このガイドラインの適合範囲に含まれる対象となるウェブページとみなされるためには、リソースが「埋め込まれていない」リソースでなければならない。
すべての埋め込まれている画像とメディアを含んだウェブリソース。
Asynchronous JavaScript and XML (AJAX) を用いたウェブメールのプログラム。そのプログラム全体は http://example.com/mailに存在しているが、受信箱、アドレス帳、カレンダーがある。リンク又はボタンがあり、それを押すと受信箱、アドレス帳やカレンダーを表示するが、ページのURI は全体を通して変わらない。
カスタマイズ可能なポータルサイトで、利用者が様々なコンテンツモジュールのセットから表示させるコンテンツを選択できるようなもの。
ブラウザで "http://shopping.example.com/" へ行くと、映画のようなインタラクティブなショッピング環境になる。そこでは、視覚的に店内を移動して、店内の棚から商品をドラッグして、目の前にある視覚的な買物カゴに商品を入れる。商品をクリックすると、同時に仕様書が浮き上がるように表示される。これは1ページだけのウェブサイトかもしれないし、ウェブサイトの中のほんの1ページなのかもしれない。