意図
この達成基準の意図は、障害のある利用者がウェブコンテンツを操作するのに十分な時間の提供を、可能な限り保証することである。全盲、ロービジョン、巧緻性障害、及び、認知能力の低下している利用者は、コンテンツを読んだり、オンラインフォームに記入したりするような操作を実行するのに、より長い時間を必要とする場合がある。ウェブコンテンツの機能が時間の経過に依存している場合、制限時間内に必要な操作を実行することが困難な利用者もいるだろう。このことは、サービスをそういった利用者に対してアクセシブルではないものにしてしまう。そこで、機能を時間の経過に依存しないように設計することで、障害のある利用者がその操作を完了させやすくなる。制限時間を解除する、制限時間の長さを調整する、又は時間切れになる前に制限時間の延長を要求する、といった選択肢を提供することは、作業を無事に終えると見込まれているよりも多くの時間を必要とする利用者の助けになる。これらの選択肢は、利用者にとって最も有用なものから順に書かれている。時間切れになる前に制限時間の延長を要求できるようにすることよりも、制限時間の長さを調整できるようにすることのほうが望ましく、さらにそれよりも制限時間を解除できるようにすることのほうが望ましい。
利用者によって開始されることがなく、設定時間後又は定期的に発生する処理は、どれも制限時間によるものである。これには、コンテンツの一部又は全部の更新 (例えば、ページのリフレッシュ)、コンテンツの変更、入力の要求に利用者が対応するためのウィンドウの期限切れなどが含まれる。
利用者が読む及び/又は理解することができる能力を超えた速度で、進む又は更新されるコンテンツも、あわせて含まれる。言い換えれば、アニメーションのある、動きのある、又はスクロールするコンテンツは、利用者がコンテンツを読む能力に対して制限時間を課することになる。
この達成基準は、コンテンツが繰り返される又は他のコンテンツと同期する場合、情報及びデータが調整可能である、又は別の方法で利用者の制御下にある限り、一般に適用されない。この達成基準が適用されない制限時間の例としては、繰り返しスクロールするテキスト、キャプション、及びカルーセルが含まれる。これらは制限時間を含む状況ではあるものの、コンテンツには達成基準 2.2.2 一時停止、停止、非表示で規定されているようなアクセスするためのコントロールがあるため、利用者にとっては依然として利用可能である。
ただし場合によっては、制限時間を変更することが不可能なことがあり (例えば、オークション又は他のリアルタイムのイベントにおいて)、このため、それらの場合に対する例外規定が提供されている。
サーバーの制限時間に関する注記
- 制限時間のあるサーバーのリダイレクトは、以下にある「よくある失敗例」の中で述べられている。
- 制限時間のないサーバーのリダイレクト (例: HTTP レスポンスコード 3xx) は、時間の制限がなく、瞬時に作動するので、この達成基準は適用されない。
- この達成基準は、コンテンツ自体が設定する制限時間だけに適用される。例えば、セキュリティ上の懸念に対処するために制限時間を設けている場合、そのコンテンツの提示やインタラクションによる体験の一部であるため、コンテンツによって制限時間が設定されているとみなされる。ユーザエージェント又はインターネット固有の要因などにより、コンテンツ以外のものが設定する制限時間は、コンテンツ制作者が制御できるものではなく、WCAG への適合要件の対象とはならない。ウェブサーバにより設定される制限時間は、コンテンツ制作者や運営組織が制御できるものであり、対象となる (達成基準 2.2.3、2.2.4 及び 2.2.5 も適用されることがある)。
- デフォルトの 10 倍は、臨床的経験及び他のガイドラインに基づいて選ばれている。例えば、利用者が反応してスイッチを押すのに 15 秒間与えられていたら、たとえ問題があったとしても、150 秒はすべての利用者がスイッチを押すのに十分な時間であろう。
- また、20 秒間も、臨床的経験及び他のガイドラインに基づいている。「あらゆるスイッチ」を押すのに、20 秒あれば、痙性 (麻痺している筋肉が自分の意思に関わらず勝手に緊張して収縮する症状) のある利用者も含むほとんどすべての利用者にとって十分である。中にはそれでも足りない利用者もいるかもしれないし、時間をどれだけ延ばしても足りない利用者もいるだろう。任意の長い時間にしてしまうと、あるアプリケーションに対して障害のある利用者を含むすべての利用者を危険な状態にするため、時間の延長を要求するのに妥当な時間を定める必要がある。例えば、金融取引に用いられるキオスク端末又は端末装置は、利用者が取引を終了せずにその場を離れてしまうことが非常によくある。そのままでは、端末を次の人に不正利用されやすい状態にしておくことになる。利用者の確認をせずに休止状態を長時間与えて、長時間にわたって利用者がその場にいるという状態にしておくことは、端末を不正利用の危険にさらすことになる。何も動きがなければ、システムはそこに利用者がいるかどうかを確認しなければならない。そのため、システムは、利用者がそこにいることを確認するように求め (「どれかキーを押してください」)、誰もが応じることができるだけの長さで利用者の反応を待つべきである。「どれかキーを押してください」に対して、20 秒という時間は、この条件を満たすであろう。もし利用者が自分はまだそこにいるということを示せば、その端末は利用者に確認する前と同じ状況を利用者に再び提示しなくてはならない。
- 一日に起きている時間よりも長いので、上限として 20 時間を選んだ。
制限時間が本質的な要件ではなく、利用者に制限時間のあるイベントを制御できるようにすることが、その結果を無価値にするような場合には、第三者がその利用者のために制限時間を調整することができる (例えば、試験に 2 倍の時間を与える)。
2.2.3: タイミング非依存も参照のこと。
メリット
- 身体障害のある利用者は、反応したり、入力したり、タスクを完了したりするのに、より長い時間を要することが多い。ロービジョンの利用者は、画面上で何かを探したり、読んだりするのに時間がかかる。全盲でスクリーンリーダーを使用している利用者は、画面のレイアウトを理解したり、情報を見つけたり、そしてコントロールを操作したりするのに時間がかかるかもしれない。認知能力の低下、又は言語の障害のある利用者は、読んだり、理解したりするのに時間がかかる。ろう者で手話によるコミュニケーションしている利用者は、(彼らにとっては第二言語のようなものかもしれない)テキストで書かれた情報を読むのに時間がかかるかもしれない。
- 手話通訳者がろう者に音声コンテンツを通訳しているような状況では、制限時間を調整できることも重要である。
- 読字障害、認知の障害及び学習障害のある利用者は、情報を読んだり、理解したりするのに時間がかかることがあり、コンテンツを一時停止させることによって、その情報を読む時間を延長することができる。
事例
- ウェブサイトは、クライアントサイドの制限時間を用いて、コンピュータから離れてしまう可能性のある利用者を保護している。何も活動がないと、ウェブページは利用者がまだ時間が必要かどうかを確認する。もし利用者からの反応がなければ、そこでタイムアウトになる。
- ウェブページには、巡回手段で最新のニュース見出しを自動的に更新するフィールドがある。利用者は更新する時間をデフォルトの 10 倍の長さに延ばすことができるインタラクティブなコントロールがある。そのコントロールは、マウス又はキーボードのどちらかで操作可能である。
- ウェブページには、至るところに現れては消えるテキストが組み込まれたアニメーションがある。テキストがスクロールして画面を横切るものもあれば、表示されると短時間で背景に消えていくものもある。テキストを読むのが困難な利用者がテキストの消えてしまう前に読むことができるように、そのページには一時停止ボタンがある。
- オークションにおいて、利用者が入札しなければならない時間に期限がある。その制限時間は、特定の品目に入札したいと思っているすべての利用者に適用されるので、特定の利用者の誰か 1 人だけに制限時間の延長を認めると公平ではなくなる。そのため、制限時間はこの種のコンテンツには必須であり、この達成基準によって、制限時間の延長、調整、又は解除を要求されることはない。
- オンラインチケット購入サイトでは、利用者が席を確保して購入内容を確認するのに 2 分間の制限時間が与えられている。そのようなサイトのチケットはすぐに売り切れてしまうため、それ以上チケットを確保しておくと、サイト本来の機能を発揮できない可能性がある。そのため、これは制限時間が必要不可欠で、利用者による行為を無効にすることなく時間延長することができない事例の一つである。しかし、そのサイトは、時間制約のある段階に入る前に、例えば氏名、支払方法などの必要な情報を利用者が提供できるようにするなどして、できる限り多くのプロセスを制約時間外で行えるようにしている。
- チケット購入サイトは、利用者が選択した席の購入を確認するために 2 分間の制限時間を与えているが、時間切れが近づくと利用者に警告を出し、例えば、「時間を延長する」ボタンを押すなどの簡単な操作で、利用者がこの制限時間を何度か延長できるようにしている。
関連リソース
リソースは、情報提供のみを目的としており、推奨を意味するものではない。
達成方法
この節にある番号付きの各項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する達成方法、又は複数の達成方法の組み合わせを表している。しかしながら、必ずしもこれらの達成方法を用いる必要はない。その他の達成方法についての詳細は、WCAG 達成基準の達成方法を理解するの「その他の達成方法」を参照のこと。
十分な達成方法
そのコンテンツに合致する状況を以下から選択すること。それぞれの状況には、WCAG ワーキンググループがその状況において十分であると判断する、番号付の達成方法 (又は、達成方法の組み合わせ) がある。
状況 A: セッションの制限時間がある場合:
状況 B: 制限時間がページ上のスクリプトで制御されている場合:
状況 C: コンテンツを読むのに制限時間がある場合:
失敗例
以下に挙げるものは、WCAG ワーキンググループが達成基準の失敗例とみなした、よくある間違いである。
重要な用語
もし取り除いてしまうと、コンテンツの情報又は機能を根本的に変えてしまい、かつ、適合する他の方法では情報及び機能を実現できない。