読解レベル:
達成基準 3.1.5 を理解する
この達成基準の意図
コンテンツは、可能な限り明快かつ簡潔に書かれているべきである。この達成基準の意図は以下の通りである:
難解又は複雑な文章を理解しやすくするために、補足的コンテンツを提供すること。
そのような補足的コンテンツがどういうときに必要なのかを示すテスト可能な基準を定めること。
この達成基準は、コンテンツ制作者が難しい又は複雑なウェブコンテンツを公開できるようにしながらも、読字障害のある利用者の手助けとなる。文章の難しさは、それを読むのに必要とされる教育の水準という観点から説明されている。教育レベルは、教育システムを国際的に比較できるようにするために作成された国際標準教育分類 [UNESCO] に従って定義している。
難しい又は複雑な文章が、想定した利用者層のほとんど(つまり、コンテンツの対象者のほとんど)に対しては適切なこともある。しかし、その分野における専門的な知識を持つ高学歴の利用者の中にも、読字障害を含めて、障害のある利用者がいる。文章をより読みやすくすることで、そういった利用者にも対処することが可能である。文章をそれ以上読みやすくすることができない場合には、補足的コンテンツが必要となる。補足的コンテンツが必要となるのは、その文章が前期中等教育レベル以上の読解力が求められる場合である。つまり、9年よりも長い学校教育を受けている必要がある場合である。補足的コンテンツが必要となるような文章は、読字障害のある利用者にとっては深刻な障壁となり、後期中等教育を修了した障害のない利用者にとっても難解であると考えられている。
書かれた単語又は印刷された単語を認識して、正しい音と関連付ける処理を文章の「復号化」という。ディスレクシア(失読症)などの読字障害は、文章の復号化をしづらくする。 復号化は、人がすらすらと読むためには、無意識に行われるものである。文章を1単語ずつ復号化しなければならない場合、多くの人が自分の読んでいるものを理解するために用ている精神的なエネルギーの多くを、この行為に消費しなければならないことになる。簡潔でよく使われる単語及び簡潔な文を用いた文章は復号化しやすく、長文及び長い単語又は馴染みのない単語を用いている文章ほどの読解力を通常は必要としないものである。
テキストのコンテンツを読むのに必要な教育レベル(リーダビリティ (readability) とも呼ばれる)は、ウェブページ上の文章から抽出した節を解析することで測定することができる。ウェブページに異なる目的で書かれた文章、又は異なるスタイルを用いた文章がある場合は、ウェブページにあるコンテンツの種類のサンプル、及びそのコンテンツが書かれている異なるスタイルのサンプルを含める(多くの場合、ウェブページには、1つの種類のテキストコンテンツしかない。例えば、技術的な文書、法律上の表示、マーケティング素材など。そして、すべてのコンテンツは同じスタイルを用いている)。
教育者もまた、テキストコンテンツを読むのに必要とされる教育レベルを測定することができる。例えば、資格のある教師は、前期中等教育の最終学年の生徒に要求される以上の読解力を必要とするかどうかを判断するために、ローカルの教育標準に従って文章を評価することができる。
人名、都市名、又はその他の固有名詞を変更して短くすることはできないため、そしてそうすることや単に代名詞でそれらを指すことは文章を理解しづらくする恐れがあるため、この達成基準では、読解力の要件を満たしているかどうかを検証する際には、固有名詞を無視するか文章から取り除くことができるとしている。タイトルは、文書、書籍、映画などの名前のことを指している。タイトルにある文言を変更してしまうと、読みやすくはなるかもしれないが、そのタイトルがどのアイテムを指しているのかが分からなくなってしまうため、分析する際にはタイトルを削除するか無視してもよい。そのため、タイトルも、明確に適用対象外となる。
ウェブページに複数の言語があるときは、リーダビリティの検証結果は、コンテンツの少なくとも5%を占めていて、全文又は段落全体で使われている言語ごとに算出すべきである(個々の単語又は語句だけというのは除く)。そして、そのページ全体のリーダビリティは、最も悪い結果を出した言語で判断しなければならない。
また、コンテンツのリーダビリティは、抽出した節にリーダビリティの計算式を適用することで判断できることもある。(すべてではないが)多くのリーダビリティの計算式は、100ワードで計算している。そのような計算式が、多くの言語に対して作られている。その節にある単語の数を数えて、単語の長さを音節の数又は文字数のどちらかを数えて判断している。ほとんどのリーダビリティ計算式は、文の長さと数も考慮に入れている。そして、コンテンツの単語及び文の平均的な長さを用いて、リーダビリティのスコアを算出している(日本語のような言語では、同じ節の中に2種類の文字が含まれていることがある。このような言語のリーダビリティ計算式は、その「連続」の数及び長さも計算に入れているかもしれない)。計算結果は、数字(例えば、0箸キ100の範囲)又は学年で提示される。そして、この結果を国際標準教育分類にある教育レベルを用いて評価することができる。リーダビリティの計算式は、少なくともいくつかの言語では、人気のあるソフトウェアのスペルチェック機能で利用可能で、オプションで文書のチェック完了時にリーダビリティの解析結果も表示するように指定することができる。
初等教育 | 前期中等教育 | 後期中等教育 | 高等教育 |
---|---|---|---|
学校教育の最初の6年 | 学校教育の7〜9年目 | 学校教育の10〜12年目 | 13年目以降の学校教育 |
出典: 国際標準教育分類 [UNESCO]
注記: Open Society Mental Health Initiative によれば、読みやすさの概念は万国共通ではなく、読み書きと理解に問題を抱えたすべての人の能力に合致する文章を書くことは不可能だろうといわれている。最も明快で、かつ最も簡易な言葉遣いを用いることが非常に望ましいが、WCAG ワーキンググループではそれが達成されているかどうかを検証する方法を見つけることができなかった。読解レベルを用いているのは、明快な文章を推奨する達成基準にテスト可能性を持たせるためである。認知の障害の種類や程度によっては、補足的コンテンツを提供することが効果的な実装方法の一つとなりえる。
達成基準 3.1.5 の具体的なメリット
この達成基準は、次のような利用者にメリットがある:
一般的な知識又は特定の情報を得るために、書き言葉(例: テキストあるいは点字の記事、説明文、又は新聞記事)を理解して解釈するのが困難である。
達成基準3.1.5 の事例
複雑な研究記事の読みやすい要約がある科学雑誌
ある科学雑誌には、その分野の専門家を対象とした、とても専門的な言葉遣いで書かれた記事がある。その雑誌の目次ページには、各記事の要約が平易な言葉で書かれている。その要約は、8年間の学校教育を受けた一般読者を想定している。また、雑誌のメタデータには、Dublin Core(ダブリン・コア)の仕様を用いて、記事の想定している読者の教育レベルを「高等教育」、要約の想定している読者の教育レベルを「前期中等教育」と示してある。
一般会員向けの医療情報
ある医科大学が、最近の医学的及び科学的発見を説明するウェブサイトを運営している。そのサイトの記事は、医療の知識のない人向けに書かれている。各記事では、Dublin Core(ダブリン・コア)のメタデータの仕様を用いて、想定している読者の教育レベルを「前期中等教育」と示し、その記事の Flesch Reading Ease のスコアも提供している。各ページにあるリンクをたどることで、教育レベル及びその他のメタデータを表示することができる。前期中等教育レベルの読者がその記事を読むことができるので、補足的コンテンツは必要ない。
E-ラーニング・アプリケーション
スペインの文化史に関するオンラインコースに、ムーア建築に関する単元がある。その単元のテキストは、様々な読解レベルを持った学生向けに書かれている。建築物の写真や画で、建築のコンセプト及び様式を図示している。グラフィック・オーガナイザーを用いて文章の複雑な関係性を図式化し、合成音声を用いた音声バージョンも提供している。各バージョンのメタデータでコンテンツの教育レベルを示し、スペイン語のテキスト向けに開発された計算式に基づくリーダビリティのスコアもある。この E-ラーニング・アプリケーションは、このメタデータ及び学生に関するメタデータを用いて、個々の学生のニーズに合ったバージョンの教材を提供している。
前期中等教育レベルの読解力を要する科学情報
次のテキスト(合計116ワード)は、Flesch-Kincaid式によると、米国ではグレード 4.2 の読解力を必要とする。米国では、グレード 4.2 は初等教育レベルである。
Science is about testing ? and about looking closely. Some scientists use microscopes to take a close look. We're going to use a simple piece of paper.
Here's what you do: Print this page and cut out the square to make a "window" one inch square. (It's easiest to fold the page in half before you cut.)
Choose something interesting: a tree trunk, a leaf, flower, the soil surface, or a slice of soil from a shovel.
Put your window over the thing and look at it closely. Take your time ? this is not a race.
To help you see more details, draw a picture of what's inside your square.
Now let's think about what you've found.
(出典: Howard Hughes Medical Institute http://www.hhmi.org/coolscience/forkids/inchsquare/)
関連リソース
リソースは、情報提供のみを目的としており、推奨を意味するものではない。
Plain Language Audit Toolは、文書を編集してより明解かつ「簡単な表現」にすることができるかどうかを判定するためのチェックリストを提供している。このチェックリストには、リーダビリティの評価のための項目も含まれている。Plain Language Audit Toolは、カナダの Northwest Territories Literacy Council http://www.nwt.literacy.ca/resources/plainlang/auditool/cover.htmから入手できる。
Plain Language Association INternational (PLAIN)のウェブサイトでは、様々な文化的、修辞的な文脈において、文書制作者がより明解な表現をするための多くのリソースが提供されている。http://www.plainlanguagenetwork.org/参照。
米国政府の plain languageウェブサイトでは、簡単な表現 (plain language)に関する一般的情報に加えて、法的な要件を含む米国政府関連文書におけるplain languageの使用に関する情報が提供されている。
The Plain English Campaignのウェブサイトでは、英語で文書作成を行う場合に有用な情報や指針が提供されている。
Juicy Studio's Readability Testは、表示されたすべてのコンテンツのリーダビリティの解析を行う。
Hall, T., and Strangman, N. CAST: Graphic organizers. 2005年4月5日現在。この記事では、数種類の異なるグラフィック・オーガナイザについて概観し、それぞれの種類のグラフィック・オーガナイザがどのような場合に有用であるかを説明している。その上で、グラフィック・オーガナイザが学習において、特に学習障害がある学生にとって有用であるという研究結果の概要を示している。
Entry for Audience Education Level. Using Dublin Core ? Dublin Core Qualifiers
TextQuest.deには、英語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語フランス語及びスウェーデン語を含む多くの原語におけるリーダビリティの計算式のリストが提供されている。
Richtlijnen Keurmerk Makkelijk Lezenは、Stichting Makkelijk Lezen (Easy Reading Foundation)が用いているガイドラインである。
Leesbaar Nederlands("Readable Dutch"「読みやすいオランダ語」)では、読字障害のある人にとってアクセシブルな文書の書き方に関するガイドラインが提供されている。このガイドラインでは、言葉遣い、内容及びデザインについて示されている。
Wetenschappelijke verantwoording van de toetsserie Leestechniek & Leestempoは、オランダの組織CITOが開発した、リーダビリティと教育レベルを関連づける計算式、CILT (CITO index voor leestechniek - CITO読解力インデックス)について解説している。
Guidelines for Creating Easy to Read Text, The Open Society Mental Health Initiative
達成基準3.1.5 の実装方法及び不適合事例 - 読解レベル
この節にある番号付の項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する実装方法、又は複数の実装方法の組合せを表している。WCAG 2.0 適合要件のすべてが満たされている場合にのみ、次に挙げる実装方法により、この達成基準を満たすことができる。
達成基準を満たすことのできる実装方法
注記: この達成基準には、サイトによって異なる方法で対処することができる。コンテンツの音声バージョンは、ある利用者に対しては有用であるし、また聴覚障害のある利用者にとっては、手話が彼らにとっての第一言語であることもあるので、ページの手話バージョンのほうが書き言葉のバージョンよりも理解しやすいかもしれない。中には、音声と手話の両方のバージョン又はその他の組合せを提供するサイトがあってもよい。どの実装方法も、問題を抱える利用者すべてに役立つわけではない。そのため、サイトをよりアクセシブルにしようとしているコンテンツ制作者のために、ここでは様々な実装方法が達成基準を満たすことのできる実装方法として挙げられている。上記の番号の付いた実装方法又はその組合せを用いることが可能で、WCAG ワーキンググループではこれで達成基準に適合するには十分であると考えている。
達成基準 3.1.5 でさらに対応が望まれる実装方法(参考)
適合するためには必須ではないが、コンテンツをよりアクセシブルにするためには、次の付加的な実装方法もあわせて検討するとよい。ただし、すべての状況において、すべての実装方法が使用可能、または効果的であるとは限らない。
前期中等教育レベル以上の読解力を必要としないテキストを用いて、ナビゲーション用のページとランディングページを提供する(リンク追加予定)
前期中等教育レベル以上の読解力を必要としないテキストを用いて、サイト内のページを提供する(リンク追加予定)
コンテンツの概要をメタデータの一部とし提供する(リンク追加予定)
コンテンツに適した最も明解で最も単純な表現を使用する(リンク追加予定)
RDFを用いて、補足的コンテンツと主たるコンテンツに関連づける(リンク追加予定)
サイトのホームページにそのサイトを表す分かりやすい画像を掲載する(リンク追加予定)
読みやすいように最適化されたコンテンツであることが分かるように、テキストやアイコンを用いて明示する(リンク追加予定)
冗長な単語の使い方、すなわち文の意味を変えない異なる単語を用いないで文を構成する(リンク追加予定)
二つより多い接続詞を含む文を使わない(リンク追加予定)
中等教育レベルで一般的に容認されている長さを超えない文を用いる(注記: 英語では25ワードである)(リンク追加予定)
複雑な単語又は語句で、より一般的な言葉で置き換えても文の意味が変わらない場合、複雑な単語や語句を含まない文を用いる(リンク追加予定)
テキストの複数の章や節の概要を提供する(リンク追加予定)
メタデータを用いて、異なる読解力を想定して作られた代替コンテンツを関連づける(リンク追加予定)
ダブリン・コアのアクセシビリティ要素を用いて、テキストコンテンツとテキスト、グラフィック、音声版の補足的コンテンツを関連づける(リンク追加予定)
ISO AFAのアクセシビリティ要素を用いて、テキストコンテンツとテキスト、グラフィック、音声版の補足的コンテンツを関連づける(リンク追加予定)
IMSのアクセシビリティ要素を用いて、テキストコンテンツとテキスト、グラフィック、音声版の補足的コンテンツを関連づける(リンク追加予定)
メタデータを利用者に見えるようにする(リンク追加予定)
事例:新しい科学的発見に関する高等レベルの記事の初頭レベル以下及び初頭レベルの版へのURIをメタデータとして提供する
サイトとページのコンテンツに進展する複雑性を与える(リンク追加予定)
達成基準 3.1.5 のよくある不適合事例
以下に挙げるものは、WCAG ワーキンググループが達成基準 3.1.5 に適合していないとみなした、よくある不適合事例である。
(今のところ、文書化されている不適合事例がない)