意図
この達成基準の意図は、利用者が光感受性による発作を引き起こすことなく、サイト上のすべてのコンテンツを利用できるようにすることである。
光感受性による発作性障害のある人は、特定の周波数で数回以上の閃光を放つコンテンツによって発作を引き起こす恐れがある。人間は他の色よりも赤色の閃光に対してさらに敏感であるため、彩度の高い赤色の閃光に対して特別な試験方法が提供されている。このガイドラインは、もともと放送業界向けであったガイドラインに基づいたもので、より近い距離から (より大きな視野角で) コンテンツを見るデスクトップモニターに適合させたものである。
閃光は、ディスプレイ、画像をレンダリングするコンピュータ、又はレンダリングされたコンテンツによって、発生する可能性がある。コンテンツ制作者には、最初の二つを制御することはできない。それらは、ディスプレイ及びコンピュータの設計及び速度によって対処される。この達成基準の意図は、コンテンツ自体が閃光閾値に違反する明滅を引き起こさないようにすることである。例えばコンテンツには、連続するストロボの閃光又は連射による爆発のクローズアップのある、映像のクリップ又はアニメーション画像が含まれる可能性がある。
この達成基準は、広い周波数帯域 (3~50 ヘルツ) 内のあらゆる閃光 (1 ピクセルでさえも) を許容しなかった、はるかに厳格な WCAG 1.0 の基準を置き換えるものである。この達成基準は、英国及び諸国でテレビ放送向けに用いられている既存の仕様に基づいており、コンピュータディスプレイでの表示に調整されている。WCAG 2.0 では、1024 x 768 ピクセルの画面を評価の基準となる画面解像度として用いた。341 x 256 ピクセルの矩形が、典型的な視聴距離で視野角 10 度のビューポートに相当する (10 度の視野角は、原仕様から取り出した数字で、人間が光の刺激に対して最も敏感である、眼の中心視野に相当する)。
さまざまな画面サイズのデバイス (小型の携帯端末から大型のリビングルームのディスプレイまで) の急増と、密度に依存しない測定単位としての CSS ピクセルの採用により、以前の評価基準は時代遅れに見えるかもしれない。しかし、一貫した大きさの画像は、どのようなデバイスでも利用者の視野に占める割合は相対的に同じである。大画面の場合、画像のサイズは小さくなるが、大画面は視野の大部分を占める。モバイル画面では、画像は画面のほとんど又はすべてを占めるかもしれないが、モバイル画面自体が利用者の視野に占める割合は小さい。そのため、CSS ピクセルで表現される、閃光するコンテンツの同じ寸法は、一貫した評価手段を提供することができる。CSS ピクセルを元のピクセルブロックに置き換えると、閃光の合計領域は 341 × 256 CSS ピクセル、つまり 87,296 CSS ピクセルの閃光領域となる。
コンテンツは、利用者がコンテンツを見ることができる最大のスケール、及びユーザエージェントの標準的なズームレベルで、分析するべきである。例えば、ウェブページのある領域、及びフルスクリーンで再生される可能性のある映像では、フルスクリーンでのリスクを分析するべきである。
映像コンテンツが sRGB 以外の色空間で提供される場合、最も高いダイナミックレンジで提供されるバージョンをテストする必要がある。このような場合、業界標準の一般閃光の定義は、暗い方の画像が 160 cd/m2 未満である場合に、20 cd/m2 以上の輝度変化である (ITU-R BT.1702)。これは、標準ダイナミックレンジ (SDR) 及びハイダイナミックレンジ (HDR) コンテンツに適用される。暗い状態が 160 cd/m2 以上の HDR コンテンツの場合、一般閃光は、マイケルソンコントラストが 1/17 以上のものである。マイケルソンコントラストは (LHigh - LLow) / (LHigh + LLow) で計算され、LHigh 及び LLowはそれぞれ、高輝度と低輝度の状態である。
ループする可能性のある短いクリップ (GIF アニメーションなど) の場合、ループしながらコンテンツを分析する必要がある。
仕様では、人が選択する実際の視聴距離を考慮することはできない。理想的な視聴距離よりも画面に近い利用者は、規範的に適合する閃光領域の影響を受けることになる。同じ問題は、ズームや画面拡大に依存する利用者にも当てはまる。逆に、理想的な距離よりも画面から離れている利用者は、閾値よりも大きな閃光領域を許容できるはずである。
同時に、かつ隣接して存在する閃光を組み合わせた領域は、実質的には同時に閃光を放っている全領域を意味する。その領域は、任意の視角 10 度以内で同時に閃光を放っている隣接した領域を合計して算出される。
「点滅」と「閃光」は、同じコンテンツを指すこともある。
- 「点滅」は、利用者の注意を散漫にさせる問題を引き起こすコンテンツを指す。点滅は、その点滅が停止する (又は停止させることができる) 限り、短時間であれば許容できる。
- 「閃光」は、(1 秒間に 3 回よりも多く、大きさ及び明るさが十分な場合に) 光感受性発作を引き起こす恐れのあるコンテンツを指す。これは、たとえ 1 秒間だけであったとしても許容されず、さもなければ光感受性発作を引き起こす恐れがある。そして、光感受性発作は利用者が閃光を停止するよりも速く発生する恐れがあるため、閃光を停止させることも選択肢にはならない。
- 通常、点滅は 1 秒間に 3 回以上の速度で起こらないが、その可能性はある。点滅が 1 秒間に 3 回を超える速さで起こる場合、これはまた閃光とみなされるであろう。
メリット
- 閃光を放つコンテンツを閲覧している際に発作を起こす可能性のある利用者が、発作を起こすことなく、そしてテキストによる代替では限定されてしまうようなコンテンツの完全な体験を逃すことなく、サイト上のすべてのコンテンツを閲覧することが可能になる。これには、光感受性てんかん及び光感受性による発作性障害のある利用者も含まれる。
事例
- ウェブサイトには、閃光を放つ機関銃の銃火の映像があるが、閃光を発する画像のサイズは閃光閾値のサイズを下回る画面のほんの一部に限定している。
- 非常に明るい稲妻の閃光のシーンがある映画は、稲妻が任意の 1 秒間に 3 回しか閃光を放たないように編集されている。
関連リソース
リソースは、情報提供のみを目的としており、推奨を意味するものではない。
達成方法
この節にある番号付きの各項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する達成方法、又は複数の達成方法の組み合わせを表している。しかしながら、必ずしもこれらの達成方法を用いる必要はない。その他の達成方法についての詳細は、WCAG 達成基準の達成方法を理解するの「その他の達成方法」を参照のこと。
十分な達成方法
重要な用語
障害のある利用者の要件を満たすために、主流のユーザエージェントが提供する機能を超えた機能を提供するような、ユーザエージェントとして動作する、又は主流のユーザエージェントと共に動作するハードウェア及び/又はソフトウェア。
支援技術が提供する機能としては、代替の提示 (例: 合成音声や拡大表示したコンテンツ)、代替入力手法 (例: 音声認識)、付加的なナビゲーション又は位置確認のメカニズム、及びコンテンツ変換 (例: テーブルをよりアクセシブルにするもの) などを挙げることができる。
支援技術は、API を利用、監視することで、主流のユーザエージェントとデータやメッセージのやりとりをすることが多い。
主流のユーザエージェントと支援技術との区別は、絶対的なものではない。多くの主流のユーザエージェントは、障害のある個人を支援する機能を提供している。基本的な差異は、主流のユーザエージェントが障害のある人もない人も含めて、広く多様な利用者を対象にしているのに対し、支援技術は、特定の障害のある利用者という、より狭く限られた人たちを対象にしているということである。支援技術により提供される支援は、対象とする利用者に特化した、よりニーズに適したものである。主流のユーザエージェントは、プログラムオブジェクトからのウェブコンテンツの抽出、マークアップの識別可能な構造への解釈といった、重要な機能を支援技術に対して提供する場合がある。
この文書の文脈において重要な支援技術としては、以下のものが挙げられる:
- 画面拡大ソフト及びその他の視覚的な表示に関する支援技術。視覚障害、知覚障害、及び読書困難などの障害のある人が、レンダリング後のテキスト及び画像の視覚的な読みやすさを改善するために、テキストのフォント、サイズ、間隔、色、音声との同期などを変更するのに使用している。
- スクリーンリーダー。全盲の人がテキスト情報を合成音声あるいは点字で読み取るために使用している。
- 音声変換ソフトウェア。認知障害、言語障害、及び学習障害のある人が、テキストを合成音声に変換するために使用している。
- 音声認識ソフトウェア。何らかの身体障害のある利用者が使用することがある。
- 代替キーボード。特定の身体障害のある人がキーボード操作をシミュレートするのに使用している (ヘッドポインタ、シングルスイッチ、呼気・吸気スイッチ、及びその他の特別な入力デバイスを使った代替キーボードを含む)。
- 代替ポインティングデバイス。特定の身体障害のある人がマウスポインタとボタンの動きをシミュレートするのに使用している。
注意を引く意図で、二つの視覚的な状態を交互に切り替えること。
閃光も参照。ある程度の面積をもち、ある程度の明るさ、特定の頻度で点滅するものは、閃光に分類されることもありうる。
相対輝度の相反する変化の組合せで、十分な広さを持ち、かつ特定の頻度の場合に、一部の人に発作を誘発する恐れがあるもの。
許容されない閃光の種類に関する情報は、一般閃光閾値及び赤色閃光閾値を参照。
点滅も参照。
次のいずれかに該当する場合、閃光、又は急速に変化する映像シーケンスは、閾値を下回っている (すなわち、コンテンツは基準を満たしている) ことになる:
- あらゆる 1 秒間において、一般閃光及び/もしくは赤色閃光は 3 回以下である。又は、
- 典型的な閲覧距離で、同時に発生する閃光の領域の合計が、画面上のどの視野 10 度内で、合計 0.006 ステラジアン (画面上の視野 10 度の 25%) よりも多くを占めていない。
ここで:
- 一般閃光とは、相対輝度の相反する変化が相対輝度の最大値 (1.0) の 10%以上となる組合せであり、暗いほうの映像の相対輝度が 0.80 未満であるもの、として定義される。ここでいう「相反する変化の組合せ」とは、増加した後に減少する、又は減少した後に増加するものである。そして、
- 赤色閃光は、彩度の高い赤色を含んだ相反する遷移として定義される。
例外: ホワイトノイズや、1 辺が (典型的な閲覧距離における視野の) 0.1 度未満の市松模様のような細かくバランスの取れた閃光は、閾値を超えることにはならない。
一般的なソフトウェア又はウェブコンテンツの場合、コンテンツを 1024 × 768 ピクセルで表示したときに画面上の任意の場所で 341 × 256 ピクセルの矩形を使用すると、標準的な画面サイズ及び視聴距離 (例: 15~17 インチの画面を 22~26 インチの距離で視聴) における視野 10 度の適切な見積もりとなる。この 75~85 ppi という解像度は、CSS 仕様の規定ピクセル解像度である 96 ppi よりも低いことが知られており、したがってより保守的である。高解像度のディスプレイでは、同じコンテンツのレンダリングを表示するとより小さく安全な画像が得られるため、閾値の定義には低めの解像度を使用している。
遷移とは、相対輝度 (赤色閃光の相対輝度/色) の計測値を時間軸でプロットしたときの隣接する山と谷の間の相対輝度 (赤色閃光の相対輝度/色) の変化である。閃光は、2 つの相反する遷移で構成される。
この分野における「彩度の高い赤色を含む相反する遷移の組合せ」の (2022 年時点での) 実用的定義は、一方の遷移が、R / (R+G+B) の値が 0.8 以上の状態への遷移、又はその状態からの遷移であり、かつ、状態間の差が、CIE 1976 UCS 色度図において0.2 (単位なし) 以上である、相反する遷移の組合せである。[ISO_9241-391]
ビデオの画面キャプチャから分析を行うツールを利用できる。しかし、閃光があらゆる 1 秒間の間隔において 3 回以下であれば、ツールでこの条件を満たしているかどうかを確認する必要はない。コンテンツは自動的に条件を満たすことになる (上記 1.及び2.を参照)。
最も暗い黒を 0 に、最も明るい白を 1 に正規化した色空間内の任意の点の相対的な明るさ。
sRGB 色空間においては、色の相対輝度は、L = 0.2126 * R + 0.7152 * G + 0.0722 * B と定義されており、R、G 及び B は以下のように定義される:
- RsRGB <= 0.04045 の場合 R = RsRGB/12.92 、そうでない場合 R = ((RsRGB+0.055)/1.055) ^ 2.4
- GsRGB <= 0.04045 の場合 G = GsRGB/12.92 、そうでない場合 G = ((GsRGB+0.055)/1.055) ^ 2.4
- BsRGB <= 0.04045 の場合 B = BsRGB/12.92 、そうでない場合 B = ((BsRGB+0.055)/1.055) ^ 2.4
そして、RsRGB、GsRGB、及び BsRGB は、次のように定義される:
- RsRGB = R8bit/255
- GsRGB = G8bit/255
- BsRGB = B8bit/255
^ という記号は、指数演算子である(計算式は、[SRGB] を参考にしている)。
2021 年 5 月以前は、定義にある 0.04045 の値が異なっていた (0.03928)。これは、古いバージョンの仕様から取り込んだものであり、現在は更新されている。本ガイドラインの文脈における計算には、実質的な影響はない。
ウェブコンテンツを閲覧するのに今日用いられているほとんどすべてのシステムは、sRGB 符号化を前提としている。コンテンツを処理して表示するのに別の色空間が用いられている事が分かっているのでない限り、コンテンツ制作者は sRGB 色空間を用いて検証するべきである。もしその他の色空間を用いるのであれば、達成基準 1.4.3 を参照。
表示時にディザリングが発生する場合は、元の色の値が用いられる。元々ディザリングがかけられている色については、用いられている色の平均値を用いるべきである (R の平均値、G の平均値、及び B の平均値)。
コントラストと閃光を検証する際に、この計算を自動で行うツールが利用できる。
MathML を用いて相対輝度の定義を与える別のページでもこの計算式を表示できる。
ウェブコンテンツを取得して利用者に提示するあらゆるソフトウェア。
ウェブブラウザ、メディアプレーヤ、プラグイン、及びその他のプログラム。その他のプログラムには、ウェブコンテンツの取得、レンダリング、やり取りを支援する支援技術を含む。
単一の URI から HTTP で得た埋め込まれていないリソースに加え、レンダリングに使われる、又はユーザエージェントがこのリソースと一緒にレンダリングすることを意図しているその他のあらゆるリソースを合わせたもの。
どのような「その他のリソース」も主たるリソースと一緒にレンダリングされるであろうが、これらのリソースが同時にレンダリングされるとは限らない。
このガイドラインの適合範囲に含まれる対象となるウェブページとみなされるためには、リソースが「埋め込まれていない」リソースでなければならない。
単体のウェブリソースであり、埋め込まれている画像及びメディアのすべてを含んだもの。
Asynchronous JavaScript and XML (AJAX) を用いたウェブメールのプログラム。そのプログラム全体は http://example.com/mail に存在しているが、受信トレイ、連絡先、カレンダーがある。受信トレイ、連絡先、又はカレンダーを表示するリンク又はボタンが提供されているが、全体としてページの URI は変更されない。
カスタマイズ可能なポータルサイトで、利用者が様々なコンテンツモジュールのセットから表示させるコンテンツを選択できるようなもの。
ブラウザで "http://shopping.example.com/" へ行くと、映画のようなインタラクティブなショッピング環境になる。そこでは、視覚的に店内を移動して、店内の棚から商品をドラッグして、目の前にある視覚的な買物カゴに商品を入れる。商品をクリックすると、同時に仕様書が浮き上がるように表示される。これは 1 ページだけのウェブサイトかもしれないし、ウェブサイトの中のほんの 1 ページなのかもしれない。