JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン(試験の実施と結果の記入例)

1. 解説

1.1 はじめに

試験の実施に先立ち、まず「JB.2 b) 試験対象の特定」において、試験対象を決める。次に、試験を実施する際には試験の結果やどのような状況で除外、適合、不適合などの結果に至ったかを技術的根拠として記載する。試験の結果がどのような状況であったかが後で確認できるように記録しておくことが重要である。

例えば、技術的根拠資料としてWAICが提供する実装チェックリストの例を用いて試験を行う場合には、実装チェックリストの「検証方法」に従って検証を行い、各試験項目の適合・不適合を記入する。この記入例では、実装チェックリストのカスタマイズ方法(試験実施ガイドライン3.1.2)、試験の実施と、検証結果の記入方法(試験実施ガイドライン3.1.3)の例を示す。

1.2 実装チェックリストのカスタマイズ方法

試験実施ガイドラインの3.1.2節に従って、実装チェックリストのカスタマイズを行う。まず、サイトの方針等に基づいて、使用しない達成方法や対象とならない例外事項はあらかじめ除外する。除外する項目の「適用」欄に「除外」と記入し、除外の理由等を「備考」欄に記入するとよい。

ウェブサイト制作者と連携して試験を行う場合は、使用されている達成方法が明らかであるので、試験項目を減らすことができる。しかし、使用されている達成方法が明らかでない場合には、すべての項目を試験する必要があるため、試験の手間やコストが大きくなる。試験の手間を減らすためにも、ウェブサイト制作者と連携して、使用されている達成方法をあらかじめ明らかにしておくとよい。

1.3 試験の実施と、検証結果の記入方法

試験実施ガイドラインの3.1.3節に従って、試験を実施し、検証結果を記入する。まず、対象となるウェブページ内に試験対象となる項目が存在するかを確認する。存在する場合には「○」、存在しない場合には「適用なし」となり「-」と適用欄に記入する。「-」である場合は、その理由等を「備考」欄に記入するとよい。

次に、「適用」欄が「○」である項目について試験を行う。各達成方法を確認し、対象のコンテンツがその達成方法を満たしているかを確認する。満たしている場合には「適合」欄に「○」と記入し、満たしていない場合には「×」と記入する。

2. 記入例

2.1 はじめに

WAICの提供する実装チェックリストの例を用いて、実装チェックリストのカスタマイズ、試験の実施、結果の記入を行う場合の例について順を追って示す。ここで作成する技術的根拠資料は、後からどういう試験結果であったかがわかるようにしておくことが目的である。

なお、ここで説明するのは、技術的根拠資料を作成する際の一例であり、この方法に限定されるわけではない。

2.2 事例

試験結果の記載について、「1.2.1 音声のみ及び映像のみ(収録済)に関する達成基準」を例に説明する。 (事例: WCAG 2.0 達成方法集 WCAG 2.0 の達成方法と失敗例 W3C ワーキンググループノート 2016年10月7日G166 を利用)

G166: 重要な映像コンテンツを説明する音声を提供する

事例1

ウェブページに、宇宙船の火星着陸シーンの映像しか含まない提示へのリンクがある。そして、この映像へのリンクは、宇宙船の写真である。この映像を説明する音声ファイルへのリンクが、映像の近くにある。これは、次のHTML コード例のようになるだろう。

コード例:
<a href="../video/marslanding.mp4">
<img src="../images/spaceship.jpg" alt="Mars landing, video-only" width="193" height="255"/>
</a><br />
<a href="Mars_landing_audio.mp3">Audio description of "Mars Landing"</a>

また、本事例において対象となるサイトは、以下の方針でコンテンツを作成しているものとする

2.3 実装チェックリストのカスタマイズ

試験実施ガイドラインの3.1.2節では、実装チェックリストをカスタマイズする方法について、次の順序で実施するとしている。

  1. 適合レベルに合わせた達成方法の選択
  2. 試験環境の決定
  3. 達成方法の除外
  4. 達成方法の追加
  5. 達成方法の修正

本事例では、a)~e)の手順のうち、「手順a) 適合レベルに合わせた達成方法の選択」はレベルAAとして達成基準1.2.1が選択されているとし、「手順b) 試験環境の決定」も終わっているものとする。手順a), b)を終えた後の実装チェックリストを図1に示す。実装チェックリストのうち達成基準1.2.1の項目を抜粋したものである。

図1 手順a), b)後の実装チェックリストの例
レベル 達成基準 状況 項番 細目 達成方法 適用 適合 試験方法 備考
A 1.2.1
[音声のみ及び映像のみ (収録済) ]に関する達成基準
状況 A:
収録済の音声しか含まないコンテンツの場合:
1 G158 音声のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する
状況 B:
収録済の映像しか含まないコンテンツの場合:
1 G159 映像のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する
2 G166 重要な映像コンテンツを説明する音声を提供する
次のいずれかを満たす場合は例外とする 例外事項 音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合
例外事項 音声情報がない映像に対し同等として提供されている音声に対しては、テキストによる代替は必要ない。 例えば、無声映画の代替として提供されている音声解説にキャプションを付与する必要はない

「手順c) 達成方法の除外」では、サイトの方針等で、使用しない達成方法や対象とならない例外事項をあらかじめ除外する。 この事例では前述のように、サイトの方針として、映像メディアによるテキストの代替は行わず、映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供するとしている。 そのため、1つめの例外事項の映像メディアの達成方法は使われていないので「適用」欄に「除外」、「備考」欄に「映像メディアによるテキストの代替は行わない」と記入する。 同様に、映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供する方針としているので、状況Bの項番1については、「適用」欄に「除外」、「備考」欄に「映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供」と記入する。 以上の記入が終わった段階での実装チェックリストを図2に示す。

図2 手順c)後の実装チェックリストの例
レベル 達成基準 状況 項番 細目 達成方法 適用 適合 試験方法 備考
A 1.2.1
[音声のみ及び映像のみ (収録済) ]に関する達成基準
状況 A:
収録済の音声しか含まないコンテンツの場合:
1 G158 音声のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する
状況 B:
収録済の映像しか含まないコンテンツの場合:
1 G159 映像のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する 除外 映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供
2 G166 重要な映像コンテンツを説明する音声を提供する
次のいずれかを満たす場合は例外とする 例外事項 音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合 除外 映像メディアによるテキストの代替は行わない
例外事項 音声情報がない映像に対し同等として提供されている音声に対しては、テキストによる代替は必要ない。 例えば、無声映画の代替として提供されている音声解説にキャプションを付与する必要はない

次に、対象となるウェブページ内に試験対象となる項目が存在するかを確認する。対象となるウェブページには、収録済の音声しか含まないコンテンツはない(音声による代替コンテンツが含まれているが、これは収録済の音声しか含まないコンテンツには該当しない)。このため、状況Aは該当なしとなる。そこで、状況Aの項番1の「適用」欄に「-」と記入し、「備考」欄に「提供されているのは音声による代替コンテンツのみ」と追記する。

また、対象となるウェブページには収録済の映像しか含まないコンテンツがあるので、状況Bのうち「除外」と書かれていない項番2、および、2つめの例外事項の「適用」欄に「○」と記入する。

以上の記入が終わった段階での実装チェックリストを図3に示す。

なお、今回の例においては、手順d), e) における追加修正はなかったものとして、次に試験を行う。

図3 適用有無の記入後の実装チェックリストの例
レベル 達成基準 状況 項番 細目 達成方法 適用 適合 試験方法 備考
A 1.2.1
[音声のみ及び映像のみ (収録済) ]に関する達成基準
状況 A:
収録済の音声しか含まないコンテンツの場合:
1 G158 音声のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する 提供されているのは音声による代替コンテンツのみ
状況 B:
収録済の映像しか含まないコンテンツの場合:
1 G159 映像のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する 除外 映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供
2 G166 重要な映像コンテンツを説明する音声を提供する
次のいずれかを満たす場合は例外とする 例外事項 音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合 除外 映像メディアによるテキストの代替は行わない
例外事項 音声情報がない映像に対し同等として提供されている音声に対しては、テキストによる代替は必要ない。例えば、無声映画の代替として提供されている音声解説にキャプションを付与する必要はない

2.4 試験の実施と結果の記入

「適用」欄が「○」である項目について試験を行う。各達成方法を確認し、対象のコンテンツがその達成方法を満たしているかを確認する。達成方法を満たしている場合には「適合」欄に「○」と記入し、満たしていない場合には「×」と記入する。

本事例では、収録済の映像しか含まないコンテンツの直後に、映像のコンテンツを説明する音声による代替コンテンツへのリンクがあることを確認した上で、状況Bの項番2の「適合」欄に「○」、「試験方法」欄に「目視確認」と記入する。また、2つ目の例外事項の「適合」欄に「○」、「試験方法」欄に「目視確認」、「備考」欄に「音声が映像メディアに対する代替であることを確認」と記載する。

以上の記入が終わった段階での実装チェックリストを図4に示す。

このようにして、達成基準1.2.1の試験結果を記入することができる。

図4 試験結果の記入後の実装チェックリストの例
レベル 達成基準 状況 項番 細目 達成方法 適用 適合 試験方法 備考
A 1.2.1
[音声のみ及び映像のみ (収録済) ]に関する達成基準
状況 A:
収録済の音声しか含まないコンテンツの場合:
1 G158 音声のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する 提供されているのは音声による代替コンテンツのみ
状況 B:
収録済の映像しか含まないコンテンツの場合:
1 G159 映像のみの時間依存メディアに対する代替コンテンツを提供する 除外 映像メディアに対しては音声による代替コンテンツを提供
2 G166 重要な映像コンテンツを説明する音声を提供する 目視確認
次のいずれかを満たす場合は例外とする 例外事項 音声又は映像がメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合 除外 映像メディアによるテキストの代替は行わない
例外事項 音声情報がない映像に対し同等として提供されている音声に対しては、テキストによる代替は必要ない。 例えば、無声映画の代替として提供されている音声解説にキャプションを付与する必要はない 目視確認 音声が映像メディアに対する代替であることを確認

補足: 実装チェックリストにおける各項目の説明

レベル JIS X 8341-3における適合レベル
達成基準 JIS X 8341-3における達成基準
状況 WCAG 2.0解説書の十分な達成方法における状況
細目 WCAG 2.0解説書の十分な達成方法において達成方法に付与された番号
達成方法 関連する達成方法へのリンクと説明
適用 達成方法を使用したかを区別するための記入欄
適合 達成方法に適合したかを区別するための記入欄
試験方法 試験方法の記入欄
備考 適用、適合、試験方法などに関する備考の記入欄

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