1. ガイドラインの目的
本ガイドラインは、ウェブコンテンツ(ウェブアプリケーションを含む)のウェブアクセシビリティ方針を作成する際に、文書に明記すべき事項を示すためのものである。
『JIS X 8341-3:2016』では、次のようにウェブアクセシビリティ方針を定めることを推奨している。また、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が作成した「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」に沿った対応度表記を行う場合には、あらかじめアクセシビリティ方針を定めておく必要がある。
当委員会では以下の流れを推奨している。
- ウェブアクセシビリティ方針の策定と公開
- アクセシブルなウェブコンテンツの制作
- 試験の実施と結果の公開
これら一連のプロセスは、一巡したらそれで完了というわけではなく、ウェブコンテンツを公開し続ける限り、継続的に取り組む必要がある(JIS X 8341-3:2016 附属書JA.5「保守・運用」同 JA.6「PDCA サイクルによるウェブアクセシビリティの確保・維持・向上」参照)。
附属書JA(参考) ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項
JA.1 企画
企画段階においてウェブページ一式の責任者は,ウェブアクセシビリティ方針を策定する。策定したウェブアクセシビリティ方針は,ウェブサイトではサイト上,ウェブアプリケーションではマニュアルなどで公開するとよい。ウェブアクセシビリティ方針には,次の事項を明記する。
- a) 対象 ウェブページ一式の中でウェブアクセシビリティを確保する対象を定める。
- 注記1 原則として,ウェブページ一式全体を対象とする。
- 注記2 対象とする範囲を段階的に広げていく場合,対象とする範囲及び時期が分かるように明記する。
- 注記3 第三者がその対象を特定できるように明記するのがよい。
- b) 目標とする適合レベル この規格で定義されているレベルの中から目標とする適合レベルを選択する。
この要件を踏まえ、ウェブアクセシビリティ方針に明記すべき事項について、コンテンツ提供者がウェブアクセシビリティ方針を策定しやすいように具体例を交えて解説する。
参考:
- 「ウェブページ一式」については、JIS X 8341-3:2016 『A.65 ウェブページ一式(set of Web pages)』を参照。
2. 方針に明記すべき事項
次の各事項について検討した上で、ウェブアクセシビリティ方針に明記する。
2.1 対象範囲
『JIS X 8341-3:2016』に対応する対象範囲を明記する。
- ウェブページ一式の名前やドメインを明示して、対象とする範囲を具体的に示す。
- ウェブページ一式の例としては、ウェブサイト全体やウェブアプリケーション全体などが挙げられる。
- 例えば、ウェブサイト内でドメインやディレクトリが異なるウェブページ一式など、管理形態やコンテンツの特性が異なるウェブページ一式については、個別に対象範囲を定めてウェブアクセシビリティ方針を策定することも可能である。
- あるWebページが対象範囲に含まれるかどうかは、URLを明示するなどして、客観的に判断できるようにする。
- 対象に含まないウェブコンテンツがある場合には、URLを明示するなどして、その部分が特定できるように明記する。
(例えば、あるWebページがCMS配下にあるか否かを客観的に判断することは一般には困難である。このため、対象範囲として単に「CMS配下のページ」と指定することは不適切である。やむを得ずこのような定義を行う場合は、対象ページがCMS配下にあるか否かを客観的かつ明確に判断できるように、下記の例1.~5.のような方法と組みあわせて宣言する。)
- ウェブページ一式を対象範囲とするが全てのウェブページで対応することが困難な場合は、最終目標は全体を対象とするという前提で、以下の例のように当面の目標を併記する。(その場合は、利用者にとって重要な情報や基本的な情報の掲載されているページから、優先的に対応することが望ましい。)
注記: ウェブアクセシビリティ方針で以下の例1.~6.のように当面の対象範囲を限定した場合、ウェブページ一式として試験を実施して試験結果を表示する際には、第三者がその対象範囲を特定できるように明記しなければならない。
例1. 特定のディレクトリのみを当面の対象とする場合
対象範囲:
株式会社○○○のウェブサイト(https://www.example.co.jp/)。
ただし、2016年度は△△コーナー(https://www.example.co.jp/example/ 以下)のみを対象とし、それ以外のウェブページは2017年度以降の対応とします。
例2. 特定のディレクトリを対象外とする場合
対象範囲:
○○市のウェブサイト(https://www.city.example.lg.jp/)。
ただし、2016年度は△△コーナー(https://www.city.example.lg.jp/example/ 以下)を対象から除外し、△△コーナーのウェブページは2017年度以降の対応とします。
例3. HTML以外のウェブページを除外する場合
対象範囲:
株式会社○○○のウェブサイト(https://www.example.co.jp/)。
ただし、2016年度はXYZファイル(拡張子が.xyzのウェブページ)を対象から除き、XYZファイルは2017年度以降の対応とします。
例4. 動画を除外する場合
対象範囲:
○○市のウェブサイト(https://www.city.example.lg.jp/)。
ただし、2016年度は動画コンテンツを含むウェブページを除く。動画コンテンツは、2017年度以降の対応とします。
- ウェブページ内の特定のコンテンツのみを除外することは出来ず、ウェブページ全体が除外される点に留意する
例5. 新規作成ページのみを対象とする場合
対象範囲:
株式会社○○○のウェブサイト(https://www.example.co.jp/)。
ただし、ウェブページに明記した公開日または最終更新日が2014年10月1日以降の日付であるウェブページのみを対象とします。それ以外のウェブページは、2017年度以降の対応とします。
例6. CMS配下にあるページのみを対象とする場合
対象範囲:
○○市のウェブサイト(https://www.city.example.lg.jp/)。
ただし、2016年度はCMSで管理しているウェブページ(https://www.city.example.lg.jp/cms/ 以下)のみを対象とします。それ以外のウェブページは、2017年度以降の対応とします。
(備考:CMSで管理されているウェブページの指定に際しては、対象ページがCMS配下にあるか否かを客観的に明確に判断できるように、上記の例1.~5.のような方法と組みあわせて宣言する。)
2.2 適合レベル及び対応度
三つの適合レベル(レベルA、レベルAA、レベルAAA)のうち、どの適合レベルを目標とするかを定めて明記する。また、『JIS X 8341-3:2016』への適合の表明が困難な場合は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が作成した「ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン」で定められている次の三つの対応度のうち、どの対応度を目標とするかを明記する。
- 準拠
- 一部準拠
- 配慮
(注記: 本来は準拠を目標とすることが望ましいが、直近での対応が難しい場合などには、今後の対応方針を検討した上で、当面の目標として一部準拠、配慮を選択しても良い。また、コンテンツの中には、レベル AAA 達成基準のすべてを満たすことのできないものもあるため、サイト全体の一般的な方針としてレベル AAA での適合を要件とすることは推奨されない。)
2.3 その他、明記するとよい事項
『JIS X 8341-3:2016』の要件ではないが、次のような事項についても検討し、必要に応じてウェブアクセシビリティ方針に文書化しておくとよい。
- 目標を達成する期限
- 目標とする対応度が一部準拠の場合:満たすことのできない達成基準
- 追加で目標とする達成基準
- 担当部署名
- 可能であれば連絡手段(電話番号、Eメールアドレス等)
- 把握されている問題点及びその対応に関する考え方
- 試験を実施した後であれば、試験結果を表示しているページへのリンク
3. 事例
本ガイドラインをふまえたウェブアクセシビリティ方針の例を以下に示す。
3.1 民間企業のウェブサイトの例
ウェブアクセシビリティ方針
株式会社○○○のウェブサイトでは、アクセシビリティの確保・維持・向上を実現するため「JIS X 8341-3:2016 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」への対応に取り組んでいます。
対象範囲
株式会社○○○のウェブサイト(https://www.example.co.jp/)全体
目標とする適合レベル及び対応度
JIS X 8341-3:2016の適合レベルAに準拠
注記:弊社のウェブアクセシビリティ方針における「準拠」という表記は、情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン – 2021年4月版」で定められた表記による。
- 目標とする適合レベル及び対応度が明記されている
- 対象範囲となるウェブサイトのドメインが明示されている
- 対応度表記ガイドラインへのリンクは、参照した版のURLとする
3.2 公的機関のウェブサイトの例
ウェブアクセシビリティ方針
○○市のウェブサイトでは、アクセシビリティの確保・維持・向上を実現するため「JIS X 8341-3:2016 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」への対応に取り組んでいます。
対象範囲
○○市のウェブサイト(https://www.city.example.lg.jp/)全体
目標とする適合レベル及び対応度
JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに準拠
注記:○○市のウェブアクセシビリティ方針における「準拠」という表記は、情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン – 2021年4月版」で定められた表記による。
目標を達成する期限
2017年3月31日
担当部署
○○市○○○○課
- 目標とする適合レベル及び対応度が明記されている
- 対象範囲となるウェブサイトのドメインが明示されている
- 目標を達成する期限が明示されている
- 担当部署が明示されている
- 対応度表記ガイドラインへのリンクは、参照した版のURLとする
4. 参考資料
参考となる資料や情報の入手先の一覧を以下に示す。
- (1) JIS X 8341-3:2016
- (2) みんなの公共サイト運用ガイドライン
- 公共サイトにおいて実施すべき取組み項目と手順等を示した文書。総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」より入手する事ができる。
- (3) WAICの提供する各種ガイドライン
- 当委員会から発行しているJIS X 8341-3関連のガイドラインは以下から参照できる。