アクセシビリティガイドラインと関連文書の翻訳──ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会4

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会4 主査
弁護士ドットコム株式会社 太田 良典

ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会4とは?

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(Web Accessibility Infrastructure Committee。以下、WAIC)は、ウェブアクセシビリティのJIS規格である「JIS X 8341-3」の原案作成団体です。WAICの作業部会4(以下、WG4)は、JIS X 8341-3の関連文書の翻訳を担当しています。

WCAG 2.0と関連文書の翻訳

2024年3月現在、JIS X 8341-3の最新版となっているのは、2016年発行の「JIS X 8341-3:2016」です。この規格は、2012年発行の国際規格「ISO/IEC 40500:2012」との一致規格となっています。そしてISO/IEC 40500:2012は、2008年のW3C勧告「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0」と同一の内容です。つまり、JIS X 8341-3:2016の内容はWCAG 2.0と同じものであり、WCAG 2.0を日本語に翻訳したものということになります。

WCAG 2.0のガイドラインには、ウェブアクセシビリティを確保する際に守るべき項目である「達成基準」が列挙されています。しかし、それら個々の達成基準についての説明はごくわずかで、具体例も挙げられていません。達成基準の詳細な解説は、ガイドラインとは別の「Understanding WCAG 2.0」という文書に書かれています。

この文書はガイドライン本体ではないため、JISの規格票には含まれていません。WAICでは、こういったWCAG 2.0の関連文書を日本語に翻訳し、Webサイトで公開しています。WCAG 2.0の関連文書の日本語訳は、以下のとおりです。

WCAG 2.1とWCAG 2.2の翻訳

WCAG 2.0がW3C勧告となったのは2008年のことですが、その後、2018年には次のバージョンであるWCAG 2.1がW3C勧告となっています。WCAG 2.0にあった達成基準はそのまま、新たに17の達成基準が追加されました。WG4ではWCAG 2.1の日本語訳を行い、公開しました。

しかし、このガイドラインは国際規格であるISO/IEC 40500には反映されておらず、したがって日本のJIS X 8341-3にも反映されませんでした。

その後、2023年の10月に、WCAG 2.2が勧告となりました。WCAG 2.1からは達成基準が1つ削除され、9つの達成基準が追加されています。W3Cでは、このガイドラインをISO/IEC 40500に反映しようという動きが進んでいます。WAICもその動きを受け、JIS X 8341-3の改正に向けての議論を始めています。

この動きを踏まえて、WG4ではWCAG 2.2の日本語訳を行い、2024年3月に公開しました。

WCAG 2.2の内容は、何らかの形で将来のJIS X 8341-3に反映される見込みです。もっとも、実際にJIS規格が改正されるのは2025年以降のことになるでしょう。

GitHubを利用した翻訳作業

このように、WG4ではさまざまな文書を日本語に翻訳していますが、その作業を行っているのはWAICの会員だけでなく、会員組織に所属しない作業協力者の方や、全くの外部の方にもご協力いただいています。

翻訳作業中の成果物は、GitHubで管理しています。GitHubは、主にプログラムのソースコードを管理するために利用されるプラットフォームです。ソースコードを公開して、複数の開発者で共有することができます。ある開発者が修正の必要な点を課題として登録し、別の開発者がその課題を見て実際の修正内容を提案し、別の開発者がレビューをして取り込む、といったことが可能です。また、必要に応じて修正の履歴を確認したり、修正前の過去のバージョンを取り出すこともできます。

GitHubで管理できるのは、プログラムのソースコードに限りません。日本語や英語の文章が書かれたテキストファイルや、HTMLファイルを管理することもできます。WG4ではこの機能を使って、複数の作業者による翻訳の共同作業を実現しています。作業は以下のように進みます。

  1. 翻訳対象のファイルをGitHub上に置く
  2. 必要な翻訳作業の内容を課題として登録する
  3. 翻訳を行い、翻訳した文章を提案する
  4. 別の誰かがレビューを行い、問題がなければ反映、問題があればコメントをつけて差し戻す

GitHubには、外部の人を巻き込みやすいという特徴もあります。通常、GitHubでの作業は広く公開され、誰でも見ることができます。WG4では翻訳作業をしているファイルを公開しており、WCAG 2.2の翻訳作業は以下のURLで見ることができます。

ファイルを見られるだけでなく、議論に参加したり、作業を行うこともできます。WAICに所属していない人でも、GitHubのアカウントを作成すれば、実際に課題を登録したり、修正の提案を行ったりできるのです。翻訳文書には誤訳などの誤りが見つかることもありますが、誤りを見つけた人がGitHubを使うことで、報告はもちろん、具体的な修正の提案まで行うことができます。実際、WAICの外部の方からGitHubを通じて修正の提案をいただき、それを反映することも珍しくありません。

翻訳作業へのご協力

このように、WG4ではWAICの内外からも協力をいただきつつ、翻訳作業を進めています。

WAICに入会していなくても、翻訳作業に協力することはできるのですが、継続的に翻訳作業に参加したい場合には、「作業協力者」として登録していただくこともできます。作業協力者になると、定例のミーティングに参加したり、中心メンバーと議論したりしながら、より活発に作業を進めていくことができます。興味をお持ちの方は、以下をご覧ください。

そこまで深く関われないという方も、翻訳の誤りの指摘、その他ご意見など自由にお寄せいただけます。GitHubにアクセスできない方は、お問い合わせフォームからご連絡いただけます。

もしWAIC WG4の翻訳文書をご覧になる機会があり、お気づきの点がありましたら、ぜひコメントをお寄せください。誤字脱字のようなご指摘でも大歓迎です。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
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