ウェブアクセシビリティに期待されていること ~障害当事者の体験から お買い物編~

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会2 副査
株式会社U’eyes Design デザイニング・アウトカムズ事業部 諸熊浩人
2024年4月18日

アクセシビリティとウェブアクセシビリティ

「アクセシビリティ」というキーワードで検索すると、「ウェブアクセシビリティ」や「JIS X 8341-3」に関連する情報が見つかることがあります。

これは、「ウェブサイトを検索するサービス」を使っているが故のバイアスも考えられることですが、同時に「ウェブのアクセシビリティに配慮する」利点があることも表しています。

「アクセシビリティ」とは、製品、サービス、建物、設備など、私たちが利用するものに対して、その利用者の層を拡張するためのアプローチです。

具体的には、製品やサービス、建物、設備などを、高齢者や障害者を含む多様な利用者、あるいは、暗い部屋、限られたスペース、ながら利用など多様なシーンで利用できるように設計することを表しています。

そして、そんな「アクセシビリティ」を、ウェブ上に存在するコンテンツを対象として取り扱うのが、「ウェブアクセシビリティ」であり、日本産業規格 JIS X 8341 の第3部になります。

「ウェブのアクセシビリティ」が向上するとうれしいこと

ここからは、「ウェブアクセシビリティ」が注目されている背景の一つである、「利用者からの要求」を実体験を交えて紹介します。

全盲のお買い物はつまらない

健常者の多くは、百貨店やコンビニなどに立ち寄った時、特に急ぎの用事が無ければ、以下のような購買行動を行なうのではないかと思います。

  1. 棚に陳列されたさまざまな商品を見ながら、目的の商品を探す
  2. 移動中、目的外の商品でも興味のあるものが見つかった場合は、一緒に購入することを検討する

これに対して、全盲である私の購買行動は以下の通りです。

  1. 協力者に依頼して、目的の商品を探してきてもらう
  2. 協力者に探してもらった結果、目的の商品が入手できなかった場合、類似の商品を見繕ってもらうか、または購入をあきらめる

この行動の違いが生まれるのには、以下のような理由があります。

  1. 棚に陳列された商品を自力で知る手段が乏しい
  2. 依頼する内容は具体的でなければならない。そうでなければ、協力が得られなかったり、期待する商品を選んでもらえなかったりする
  3. 協力者に「商品を選び取ってもらう」必要がある。このため、自身で商品を探し出す時よりも使える時間が制限されやすい

私自身は中途失明なのですが、失明して特に不便だと思うようになったことの一つが、この買い物です。

「目的の商品だけ購入する」というのは、無駄が少ないように見えますが、実際にはより優れた商品に気づかないという無駄を生み出している場合があります。また、買い物がルーチン化するため、外出する楽しみも減ってしまいます。

総じて、全盲流の買い物は、中途失明した私から言うと「つまらない」のです。しかも、そのつまらない買い物しか選ぶことができなくなっていました。

ウェブサイトが全盲流お買い物の常識を変えた

前項に挙げたつまらなさのいくつかを、ウェブサイトを利用することで解決できるようになりました。具体的にできるようになったことは、以下の通りです。

  1. ニュースサイトを通して、新商品や流行っている商品の名称や特長を知ること
  2. ECサイトを通して、類似の商品と価格や性能、レビューなどの比較をすること
  3. メーカー公式サイトを通して、商品の特長や、取扱説明書などの資料を読むことで、購入判断の参考にすること
  4. 商品の運送を依頼することで、手に持って運ぶことの困難な商品を購入すること

実際には、まだ「健常者の買い物と遜色なく」というところには至っていません。写真が見えなくて商品の情報がわからない、読むことのできる取扱説明書が見つけられない、といった課題に直面することもあります。

しかし、中途失明前には当たり前にできていた「多数の商品に触れ、自分で満足の行くまで検討して購入する」ことが楽しめるようになってきたと考えています。

最後に

今回は、全盲の買い物事情を例に、ウェブサイトに期待されていることや、アクセシビリティに配慮されるとうれしいことを紹介してきました。

他にも、ウェブアクセシビリティに配慮することで、スマートフォン向けのサービスのアクセシビリティ対応を効率的に進められる、といった考え方もあります。

ただ、アクセシビリティは、その先にいる利用者あっての考え方です。だから私は、実際に恩恵を受ける利用者の意見や、将来の製品やサービスの姿にわくわくしながら取り組んで欲しいテーマだと願い、今回の記事を締めたいと思います。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
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