デジタル庁が発行したウェブアクセシビリティのガイドブックについて

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1 主査・作業部会6 委員
LINEヤフー 中野 信

2025年10月16日に、デジタル庁のウェブサイトにある「デジタル社会推進標準ガイドライン」にウェブアクセシビリティに関する文書が追加されました。技術検討会議サービスデザインTF(タスクフォース) (PDF, 1.2 MB)に確認したガイドブックの概要と期待する効果について説明します。

デジタル社会推進標準ガイドライン

「デジタル社会推進標準ガイドライン群」は、デジタル社会を実現するために、サービス、業務改革、およびそれに伴う政府情報システムの整備・管理に関する共通ルールや参考ドキュメントをまとめたものです。このドキュメント群の主な内容は、政府情報システムの整備・管理に関して順守すべき手順や方針を定めた共通ルール(Normative)と、ルールを理解・実践するための参考文書やノウハウをまとめた実践ガイドブック(Informative)に分けられます。

以前は「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン群」という名称でしたが、政府内部だけでなく社会全体のデジタル化を推進する視点が加えられたため「デジタル社会推進標準ガイドライン」に改められました。

デジタル社会推進標準ガイドラインにおけるサービスデザインに関するドキュメント

デジタル社会推進標準ガイドラインのDS-600番台は、サービスデザインに関するドキュメント群であり、サービスデザイン、人間中心設計(UXデザイン)、ユーザビリティ、アクセシビリティ、ウェブサイト・ウェブコンテンツの設計といったテーマを扱っています。

このDS-600番台では、ガイドライン(番号の下一桁が0の文書)が政府の共通ルールとして各府省に遵守が求められ、利用者中心の情報システムを実現するための指針を定めます。一方、導入/実践ガイドブック(番号の下一桁が1か2の文書)は、ガイドラインの理解を深めるため、サービスデザインの原理・原則や実践的な手法を解説した文書です。

なお、サービスデザインに関するドキュメントはウェブアクセシビリティに配慮しており、Adobe Acrobat Readerとスクリーンリーダーで閲覧できます。

サービスデザインにおけるウェブアクセシビリティに関するガイドブック

サービスデザインに関するドキュメント群に、ウェブアクセシビリティに関するガイドブックが2冊含まれています。 「DS-671.2 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」はウェブアクセシビリティに初めて取り組む行政官や事業者を主な対象とし、「DS-672.1 ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック」は行政の広報担当者を主な対象としています。

ウェブアクセシビリティに関するガイドブックは、どちらもInformativeなドキュメントとして位置づけられます。

ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック

「DS-671.2 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」は、ウェブアクセシビリティに初めて取り組む行政官や事業者向けの入門資料として公開しています。「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を実現するため、ウェブアクセシビリティの考え方や取り組み方のポイントを、ゼロから学ぶことができます。ウェブアクセシビリティについて全く知らない方や、情報システムの発注・受託業務を行っている方が知っておくべきポイントをまとめています。

このガイドブックにより、知識がない職員がウェブアクセシビリティの向上に取り組み、調達・受託事業者と適切なコミュニケーションができるようになることを目指しています。内容は専門用語を極力排し、多くの図解と平易な言葉で具体的に何に対応すべきかを解説し、最新の考え方やデジタル庁内業務で蓄積された実際の事例に基づいた情報を提供しています。

この資料は、専門的な複数の規格やガイドラインを確認する手間を減らし、適切な対応を学べるようにするためのものです。2022年12月5日に公開されていましたが、2025年10月16日にデジタル社会推進標準ガイドライン群に編入されています。

ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック

「DS-672.1 ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック」は、ウェブサイト構築後に作成・追加されるコンテンツのアクセシビリティ確保に焦点を当てた資料です。これは、基礎的な事項を解説した「DS-671.2 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を補完する位置付けで、実際のコンテンツ作成時における具体的な対応を提示しています。主な対象読者は、外部に向けた情報発信やキャンペーン等を担当する行政の広報担当者です。

ウェブサイトにおけるコンテンツの更新時や追加作成時、特にアクセシビリティの確保が見落とされがちな画像、動画、SNSを活用した情報発信について、広報担当者が心掛ける点や満たすべきポイントを記載しています。この資料では、アクセシビリティ確保をイレギュラーな作業としてではなく、標準のコンテンツ作成プロセスとして扱い、「(障害者が)障害者でない者と同一の時点において同一の内容の情報を取得できること」という基本理念を満たすことを目指しています。

広報活動におけるアクセシビリティの基本、動画作成・動画配信におけるアクセシビリティ、SNSでのアクセシビリティ確保、評価と改善といった具体的なテーマを中心に構成されています。

チェックリスト

「(アクセシビリティ) 広報向けコンテンツチェックリスト」は、広報担当者が作成・追加するコンテンツのアクセシビリティを簡易的に評価するための資料です。

このチェックリストの目的は、コンテンツ作成時のセルフチェックや定期的な簡易評価に活用することです。ウェブアクセシビリティの規格を全て網羅するものではなく、ウェブサイト構築後のコンテンツ運用時に見落とされがちなポイント(画像、動画、入力フォームなど)に焦点を当てた、実践的なリストです。

チェックリストは「共通チェック項目」「動画コンテンツ向け追加チェック項目」「入力フォームを含むコンテンツ向け追加チェック項目」で構成されています。

ウェブアクセシビリティに関するガイドブックを用いることで期待される効果

ウェブアクセシビリティの向上において、デジタル社会推進標準ガイドラインにサービスデザインに関するドキュメント(DS-600番台)を用いることで期待される効果は、以下の2点が挙げられます。

  • 実践能力の向上と定着: 初心者向けのウェブアクセシビリティ導入ガイドブックにより、行政官や事業者が基本的な考え方や対応ポイントを学び、知識が標準化されます。また、広報向けガイドブックにより、ウェブサイト構築後の画像、動画、SNSなど、見落とされがちなコンテンツのアクセシビリティ確保が標準の作成プロセスとして定着します。
  • 「誰一人取り残されない」サービスの実現: 利用者中心の情報システムを実現するための共通ルールや指針が定められ、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」に向けたウェブアクセシビリティの対応が政府全体で標準化されます。

また、ガイドブックの内容は政府や公的な組織に限らず、民間組織に用いることもできますので、それぞれの組織で活用されることを期待しています。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
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