キオスクのアクセシビリティ (後編)
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1
筑波技術大学 青木千帆子
前回のメールマガジンでは、券売機やセルフレジといったキオスク端末のアクセシビリティについて、ハード面では車椅子からのアクセスを可能にする設計や視覚・聴覚・筋力に頼らない操作性を備え、ソフト面では国際標準であるWCAGに従うなどすることで確保されることを確認しました。では、これらのアクセシビリティは、日本の法制度においてどのように促進されているのでしょうか。
券売機
券売機のアクセシビリティについては、国土交通省が「公共交通機関の旅客施設に関する移動等円滑化整備ガイドライン(バリアフリー整備ガイドライン旅客施設編)」を公開しています。
ハードウェア面では、操作面の高さ、金銭投入口、車椅子で接近するための蹴込み部分に加え、緊急時の呼び出し装置や障害者割引ボタンの設置が推奨されています。また、タッチパネル式の画面に関しては、カラーコントラストとフォントに関する推奨項目が示されており、点字表示やテンキーの併設も求められています。(詳細はガイドラインp179をご参照ください。)
一方、ソフトウェア面については、前回のメールマガジンで、タッチパネルのアクセシビリティ向上のため、WCAGが適用される事例があることを確認しました。しかし、国交省のガイドラインではWCAGへの具体的な言及はありません。ただし、p238「第5部 情報提供のアクセシビリティ確保に向けたガイドライン」には、公共交通事業者等がウェブサイトを通じて情報を発信する際、JIS X 8341-3:2016のAAに準拠することが求められています。また今後の検討課題として、スマートフォン向けアプリケーションのアクセシビリティが指摘されています。
銀行ATM
ATMのアクセシビリティについては、所管省庁である金融庁によるガイドラインは存在しません。しかし、一般社団法人全国銀行協会の調査※1によると、視覚障害に対応したATMを設置している銀行は97.7%に上ります。対応方法は銀行ごとに異なり、例えばテンキー付きのハンドセットを備えたATM(例:三井住友銀行)、音声ガイダンスや文字拡大機能を備えたATM(例:セブン銀行)などが設置されています。また、一般には公開されていませんが、同協会が会員向けに発行する「銀行におけるバリアフリーハンドブック」において、障害者が利用しやすいATMの整備が推奨されていることもうかがわれます。
セルフチェックインシステム/セルフレジ
今回の記事を執筆するにあたって情報を調べましたが、ホテルのセルフチェックインシステムや小売店のセルフレジに関する具体的なガイドラインは、現時点では、所管と考えられる省庁から公表されていないようです。
一方、総務省が公表している「みんなの公共サイト運用ガイドライン」p60では、JIS X 8341-3:2016(ウェブコンテンツ)の適用対象として、「キオスク端末等で提供されるウェブコンテンツ(例:公共施設等に置かれたタッチパネル式の電子申請、施設予約など)」が言及されています。
まとめ
以上のように、キオスクと一口に言っても、銀行のATMからセルフチェックインシステムに至るまで、所管が多岐にわたり、アクセシビリティの課題もハード面とソフト面が複雑に絡み合っていることが分かりました。
しかし、こうしたアクセシビリティの課題は、前回取り上げた毎日新聞の記事をはじめ、複数のメディアでも指摘されています。また、デジタル庁が2023年3月に実施した「情報アクセシビリティに関するご意⾒募集」においても、 セルフレジやチケット購⼊システムにおいてタッチパネルの導⼊が進み、利⽤が難しくなっているとの声が寄せられました。このことから、関係府省庁もこうした課題を認識していると考えられます。
「情報アクセシビリティJIS」には、JIS X 8341-3(ウェブコンテンツ)に加え、JIS X8341-4: 2018(電気通信機器)や、JIS X 8341-6: 2013(対話ソフトウェア)など、キオスク端末のアクセシビリティに関連する複数の規格が含まれています。さらに、ウェブコンテンツの機能が充実したことを背景に、上記規格に関連する国際規格の見直しも進められつつあります。
こうした動向や、国外におけるWCAGの適用範囲の広さをふまえると、この課題は、ウェブアクセシビリティに関わる私たちにとって無関係ではありません。今後も議論の動向を注視していく必要があるといえるでしょう。
次回以降のメールマガジンでは、WCAG2ICTや、飲食店のセルフオーダーシステムのアクセシビリティについて取り上げる予定です。
- この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
- この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。