キオスクのアクセシビリティ (前編)
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1
筑波技術大学 青木千帆子
2025年2月17日の毎日新聞1面に「進む無人化 増す不便」という記事が掲載されました。この記事は、人手不足や経営合理化を背景に、社会のICT化や無人化が進む中、障害者がさまざまな場面で不便な思いを強いられている実態を取り上げています。無人駅の改札や券売機、小売店のセルフレジ、飲食店のタッチパネル式の注文システムやオンライン予約システム等、様々な場面で障害者が社会的障壁に直面していることが、アンケートを通し明らかになっています。また、こうした場合、サービス提供者が柔軟に対応することが障害者差別解消法で求められていますが、5割を超える人が「適切な対応を得られなかった」と答えています。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)は、JIS X 8341-3の原案作成や普及のための活動を行う組織です。JIS X 8341-3は、ウェブコンテンツを多様なユーザーが利用できるようにするためのルールの一つに過ぎません。しかし、その理念はすべての人々にとっての平等なアクセスです。本稿ではその観点から、障害者が直面している課題について情報を整理し、考えてみたいと思います。
キオスク端末とは
まず、この記事で扱うキオスク端末について整理します。
キオスクというと、JRの駅構内にあるコンビニを思い浮かべる方がいるかもしれません。ここで取り上げるのは、銀行のATM、駅の券売機、小売店のセルフレジ、空港やホテルのチェックインサービス等に使われる装置です。様々な種類のキオスク端末が、多様なサービスを提供するために使われていますが、固定式の装置にタッチパネル式のインターフェースを備えているのが共通する特徴です。
では、このようなキオスク端末のアクセシビリティは、どのような構造になっているのでしょうか。アメリカの法律を参考に、整理してみます※1。
ハードウェアのアクセシビリティ
多くのキオスク端末には、現金を処理する機能があります。そのため、誰もが現金を預けたり受け取ったりできるようなスペースや高さの設計が求められます。
また、操作部分については、以下の点を考慮する必要があります。
- 手が届く範囲内に配置され、十分な幅や奥行きを確保すること
- 片手や軽い力でも操作可能であること
- 機能を触覚的に識別できること
- 文字や記号の表示が十分な大きさとコントラストを持つこと
- テンキーがある場合、「5」のキーが触覚的に識別可能であること
さらに、操作内容やフィードバックを音や文字で提供し、障害者用の支援機器を接続しなくても利用できるようにする必要があります。また、音で操作状況を伝える場合は、プライバシーを確保するためにイヤホンジャックを備えることが求められます。
加えて、操作の結果としてチケット、レシート、カードキーなどが発行される場合、それらが何であるかを音声で知らせることが重要です。また、利用者が向きを判断しやすいように、切り欠きを付けるなどの工夫が求められます。
一方、冒頭に紹介した新聞記事からは、タッチパネル式インターフェースに課題があり、操作が困難な状況がうかがえます。この点については、ハードウェアのアクセシビリティの設計だけでは解決が難しいようです。
ソフトウェアのアクセシビリティ
キオスク端末は、上述したようなハードウェアを通じて入力を受け取り、内蔵したソフトウェアがレスポンスを返すことで、利用者と相互作用しながらサービスを提供します。しかし、端末に採用されているソフトウェアの仕組みは多様であり、各端末を横断する、アクセシビリティに関する共通の仕様があるのかどうか分かりにくい状況があります。そのような状況で、視覚や聴覚に頼らずタッチパネルを操作できるようにするためには、どうしたらよいのでしょう。
この点について調べてみると、どのようなシステムであったとしても、基本的にWeb Content Accessibility Guidelines(WCAG)に従うことが求められていることが分かりました。WCAGとは、ウェブコンテンツを誰もがアクセスできるようにするためにW3Cが勧告している国際的なガイドラインです。WAICが普及啓発を担うJIS X 8341-3のベースにもなっています。
アメリカの法律では、WCAGをウェブ以外にも適用することができるよう、「ウェブ」という表現を「ソフトウェア」という言葉に置き換えて活用することが明示されています。ただし、ウェブ技術を用いないソフトウェア(Non-Web software)については、いくつかの要件※2が免除されています。
このことから、ウェブアクセシビリティに関する基準は、一部の例外を除き、多くのソフトウェアに共通するアクセシビリティ確保のために実装すべき要素を含んでいると考えられます。言い換えれば、ウェブアクセシビリティに関する知識は、ICTを活用する製品全般にも応用可能な知識であるといえるでしょう。
2025年5月配信予定のメールマガジンでは、これらのアクセシビリティの確保が日本でどのように促進されているのかを取り上げます。
- この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
- この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。