PDFのアクセシビリティ

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1 主査・作業部会6 作業協力者
LINEヤフー 中野 信

PDFとは

PDFは「Portable Document Format」の略で、Adobeによって開発されたファイル形式です。ドキュメントのレイアウトや図版を保持しつつ、さまざまなデバイスや環境で一貫した表示ができることを目的としています。この形式は、1993年から仕様が公開され、2008年には国際標準化機構(ISO)によって標準化されました。

PDFはビジネス文書の共有や、パソコンで作成した印刷用データの受け渡しなど、幅広い用途で使用されています。

ウェブにおけるPDFとは

ウェブ上では、その可搬性を活かして多数の媒体での書類公開に使用されます。また、リーフレットやパンフレットといった印刷物をウェブでそのまま配布する手段としても活用され、一度作成した書類の再利用が可能となるため、効率的な情報発信手段としても見られます。しかし、アクセシビリティを考慮せずに作成されたPDFファイルは、場合によっては情報を受け取れない人が出る懸念があるため、注意が必要です。

PDFにおけるアクセシビリティは

HTML、CSS、JavaScriptを使用して作成されたウェブコンテンツと同様に、PDFにもアクセシビリティの配慮が求められます。障害のある方々を含めて、すべての人が情報にアクセスできることが重要です。規格としてはJIS X 8341-3:2016の対象です。WCAG 2.0の達成方法集におけるPDFの達成方法に示されている通り、多くの方法が存在します。また、Adobe AcrobatPDF Accessibility Checkerなどのツールを使用して、PDFのアクセシビリティを機械的にチェックすることも可能です。

しかし、スクリーンリーダーなどの支援技術によってPDFの内容をスムーズに読み取り可能にできる一方で、すべての達成基準を満たすことは難しい場合があります。

MicrosoftはOffice製品を用いてアクセシビリティを考慮したPDFファイルを作成する方法を、Adobeもアクセシビリティに対応したPDFの作成を公開しています。これらの方法を利用することでアクセシビリティを考慮したPDFを作成することが推奨されています。しかし、既に存在するPDFをアクセシブルにすることは多くの労力を要し、内容によっては困難な場合もあります。

PDFのコンテンツをアクセシブルにするためには

簡単な対応で済む書類については、PDF自体をアクセシブルにすることを目指すべきです。見出しの付与など適切な構造化や代替テキストを追加することが作業に含まれます。しかし、レイアウトに工夫を凝らしたパンフレットのような複雑な書類ではPDFと合わせて代替コンテンツを検討すべきです。たとえば、HTMLを使用したドキュメントを作成する方法があります。

家電製品のマニュアルなどでは、PDFと合わせてHTMLでコンテンツを公開していることもあります。HTMLで公開することで、アクセシビリティが向上して様々なデバイスでの閲覧が容易になります。

なお、代替コンテンツを用意する際には、代替テキストや見出し要素を設定できて複数人で編集しやすい、Wordなどの中間ファイルを準備することで、作業の効率を高めることが可能です。

最後に

JIS X 8341-3:2016を用いたウェブアクセシビリティの試験において、PDFを除外することがあります。これは試験結果だけを見ると問題がないように見えますが、実際にはPDFで提供されたコンテンツから情報を受け取れない人々を排除している状態です。

PDFがアクセシブルでない場合でも、適切な代替コンテンツを提供する方法はあります。情報のすべてが平等にアクセス可能であることが求められる現代において、PDFを含むすべてのウェブコンテンツのアクセシビリティを高めるための努力が必要です。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
このページのトップへ