ユーザビリティとなにが違うの?

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1 副査・作業部会3および6 委員
有限会社時代工房 柴田 宣史

これはウェブアクセシビリティ基盤委員会のコラム第16回です。アクセシビリティとユーザビリティは、どちらもデザインや設計に関連する概念です。広くさまざまな製品や建物等についての概念ではありますが、ここでは情報技術分野に限った説明を試みます。

平等性と満足度

アクセシビリティは、情報へのアクセス(取得・利用)のしやすさです。障害の有無や状況的な制約、または高齢等の理由があっても、ウェブサイトやアプリケーションを利用できるようにすることについての概念です。視覚、聴覚、肢体、認知などの障害のある人々が、情報にアクセスし、コンテンツを理解し、製品を操作することができるようなデザインを重視します。

具体的には、全盲あるいは弱視(ロービジョン)の利用者が、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使っていても、晴眼者と同等の情報を取得できるようにすることや、肢体不自由のある人が、マウス以外の機器を使っても目的を達成できること等を確保します。

ユーザビリティは、ウェブサイトやアプリケーションの使いやすさです。ユーザが、目的を達成するために効率的に操作できるようにするための概念です。ウェブサイトやアプリケーションのメニューのボタンの押しやすさや、フォーム利用時の郵便番号からの住所補完等が挙げられます。

まとめると、アクセシビリティの目標は、あらゆる人々についての平等なアクセスの確保で、ユーザビリティの目標はユーザの使いやすさと満足度といえます。

2つの領域の共通部分

目標としているものは異なりますが、それぞれの領域が重なる部分もあります。たとえば、

  • コントラスト(文字等と背景色の色の差)が確保されていない
  • フォームに入力すべき項目が不明瞭
  • キーボードでは操作できない項目がある

といった問題があれば、アクセシビリティの観点からもユーザビリティの観点からも問題があると言えます。

土台とすべきなのはアクセシビリティ

アクセシビリティを高めていくことと、ユーザビリティを高めていくことは、お互いにとってプラスの効果を期待できますが、ユーザビリティを重視する流れの中で、アクセシビリティが阻害されることもあります。以下の例は、特定のユーザの満足度を高めますが、他方で、アクセシビリティ上の問題でもあります。

実装 制作側の意図 アクセシビリティ上の問題
自動的な画面移動やフォーカスの移動 自動で動いた方が便利だろう 意図しない挙動は情報の取得を困難にする
動き続ける装飾 動きで雰囲気を高めていこう 動き続ける対象から注意をそらすことができないユーザがいる

アクセシビリティを確保しつつ、ユーザビリティを向上すれば、幅広いユーザに受け入れてもらえることにつながります。しかし、平等なアクセスが確保できていないのに使いやすさと満足度を向上させる、という順番には無理があります。アクセシビリティを優先して確保し、その上でユーザビリティを向上させるようにしましょう。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
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