ウェブアクセシビリティでよく誤解されること

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会1 副査
有限会社時代工房 柴田 宣史

これはウェブアクセシビリティ基盤委員会のコラム第10回です。今回はウェブアクセシビリティに関してよく誤解されることについて、例を集めてみました。

1. ウェブアクセシビリティは障害者や高齢者のためだけのものである

ウェブアクセシビリティは障害者や高齢者のためだけのものではありません。対象には、さまざまな能力や環境の制約を持つ人々も含まれています。それには、一時的な怪我や、使っている端末の不具合等も含まれます。ウェブアクセシビリティの対象は、ウェブサイトにアクセスするすべての人々です。

2. ウェブアクセシビリティを確保するとビジュアルデザイン(見た目)が犠牲になる

たしかに、ウェブアクセシビリティの求める要件の中には、ビジュアルデザインに関する項目も存在します。それらの要件がビジュアルデザインにおける制約として捉えられることがありますが、「多様な利用者を想定してデザインをする」ということは、デザインの本質であるはずです。ウェブアクセシビリティを高めることでむしろ多くの利用者にとって価値の高いビジュアルデザインを追求できます。

3. ウェブアクセシビリティの対策は1回やればいい

ウェブアクセシビリティの確保は継続的なプロセスによって成り立ちます。新しいコンテンツや機能が追加されれば、その度にウェブアクセシビリティの確認や対策が必要です。運用フェーズにおいても、コンテンツの追加、更新時にウェブアクセシビリティを確認する仕組みの導入や定期的なチェックを実施することが理想的です。

4. チェックリストの項目を満たせば、ウェブアクセシビリティ上の問題はない

WAICでは「実装チェックリストの例」を公開しており、これはウェブアクセシビリティの確保に役立つものではありますが、このチェックリストさえ満たせば、問題が解決するわけではありません。実際のユーザにとって、アクセシビリティが確保されていることを、しっかりと確認しましょう。

5. 文字の拡大機能やページの読み上げ機能をつけることがウェブアクセシビリティの確保だ

一部のウェブサイトでは「文字の拡大機能」が提供されていることがあります。しかし、文字の拡大は、OS及びブラウザーで行うことができます。また、「ページの読み上げ機能」に関して、音声読み上げが必要な人は、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使っています。加えて、「背景色の変更機能」も散見されますが、これもOSの機能として提供されています。

これらの機能をウェブサイトで用意することは、OS及びブラウザーの機能を知らない人などには有効な場合もあります。しかし、機能をウェブサイトに実装するには工数もかかるので、優先的に採用すべきかどうかは検討した方がよいでしょう。

また、ウェブアクセシビリティに関するさまざまな機能を盛り込んだ解決策として「アクセシビリティオーバーレイ」と呼ばれる方法もあります。しかし、「アクセシビリティオーバーレイ」は、ウェブアクセシビリティ上の根本的な問題に対応できるわけではないため、多くの場合、対応が不十分となりがちです。問題の解決の機会を失ってしまうことがあり、注意が必要です。

参考情報

6. ウェブアクセシビリティの確認は、高いお金を払って、専門家にお願いしないと不可能だ

ウェブアクセシビリティを確保できているかの確認方法として、JIS X 8341-3:2016に基づく試験を行う方法があります。試験を行うために必要な知識は、JISで定められている達成基準についての理解と、試験実施の手順です。これらは一般公開されており、waic.jpで参照できます。しかし、これらは文章量も多く、「専門家でなくてもできる」と言われても実際には難しいでしょう。しかし以下のように、

  • キーボードで操作してみる
  • 画像が見えなくても、コンテンツが理解できるかを確認してみる
  • 音声をオフにしても、動画の内容が理解できるかを確認してみる

といった、専門的な知識を必要としない、誰にでもできるような方法でも、確認する意味が十分にあります。

7. PDFはウェブアクセシビリティの対象外である

ウェブアクセシビリティの対象は、ウェブページを構成するHTMLだけ、という誤解があります。PDFなどのHTMLでないコンテンツについては、ウェブアクセシビリティ確保の対象外として設定しているウェブアクセシビリティ方針も珍しくありません。しかし、PDFでしか提供されていない情報について、ウェブアクセシビリティが確保されていなければ、その情報が伝わらない人がいる、ということになってしまいます。ウェブアクセシビリティ確保の手法には、アクセシブルにした同等の内容を提供する「代替コンテンツ」という考え方もあります。ぜひHTML以外のコンテンツのウェブアクセシビリティ確保についても意識してみてください。

8. ウェブアクセシビリティが確保できないコンテンツはアップロードしない方がいい

「このコンテンツ(動画等)がなければ、適合レベルAA準拠を達成できる」といった発想で、ウェブアクセシビリティを確保できていないコンテンツを公開しない、という考え方があります。しかしながら、これはコンテンツがウェブ上に存在するだけで誰もがアクセス可能というアクセシビリティの特長を損ねてしまっています。

たとえ問題のあるコンテンツであっても、削除してしまうと誰もアクセスできなくなります。逆に、誰かがアクセスできれば、アクセスできない人は、アクセスできる人に尋ねることができます。ウェブアクセシビリティ上の問題は、いずれ解消されることが望ましいですが、即時解消できないからといって、コンテンツを削除してしまうのは避けましょう。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
このページのトップへ