障害者差別解消法の基本方針に関する意見書を提出 2014年8月4日 更新
当委員会は、2014年7月31日付けで以下の意見書を内閣府に提出いたしました。
はじめに
国連の「障害者の権利に関する条約」には、「第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ」に次の条文がある。
1 締約国は、障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用する機会を有することを確保するための適当な措置をとる。この措置は、施設及びサービス等の利用の容易さに対する妨げ及び障壁を特定し、及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。
(中略)
(g)障害者が新たな情報通信機器及び情報通信システム(インターネットを含む。)を利用する機会を有することを促進すること。
外務省ウェブサイトの条文(和文) より一部抜粋
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)は、国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として制定された法律である。この条文の趣旨に沿うには、近年の海外諸国における動向をふまえても、ウェブサイト及びウェブブラウザを用いて利用するサービスや製品のアクセシビリティの確保及び向上が不可欠であると考える。
1. 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項(2・3号関係)
1-1 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、どのような場合を差別的取扱いと考えるのか。
ウェブサイトのアクセシビリティが、日本工業規格 JIS X 8341-3を満たしていないと、障害を理由とした差別にあたる。
JIS X 8341-3:2010(高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ)の技術基準は、海外諸国の多くの法律が技術基準としているW3CのWCAG(Web Content Accessibility Guidelines) 2.0と完全に一致している。
2012年10月にWCAG 2.0 が ISO/IEC 40500:2012 として承認されたことを受けて、当委員会は経済産業省に申し出て、2014年度より日本工業規格 JIS X 8341-3:2010の改定原案を作成している。同原案は、2014年度中に作成され、2015年度には専門委員会の審議を経て改定される見込みである。
1-2 不当な差別的取扱いの基本的な考え方として、正当な理由がある場合は、差別とはならないとされているが、どのような場合に正当な理由があると考えるのか。
特定の感覚に依存して利用することを前提としているウェブコンテンツにおいては、技術的に困難であり、正当であると考えられる。
1-3 合理的配慮の基本的な考え方として、どのような場合に、どのような配慮が求められると考えられるか。
行政機関等のウェブサイトにおいては、日本工業規格 JIS X 8341-3 等級AA に準拠することが合理的配慮である。
事業者のウェブサイトにおいては、日本工業規格 JIS X 8341-3等級A に準拠することが合理的配慮である。
注記1:JIS X 8341-3の「等級」は、W3CのWCAG 2.0の「レベル」と一致している。海外諸国では、公的機関に対してWCAG 2.0の「レベルAA」、民間企業には「レベルA」での対応を求めている事例が多く、上記はそれと同等である。
注記2:「準拠」という表記は、情報通信アクセス協議会ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2010 対応度表記ガイドライン 2010年8月版」で定められている対応度である。総務省「みんなの公共サイト運用モデル改定版 (2010年度)」においても採用されており、すでに「準拠」したとする公的機関のウェブサイトの事例も多くある。
1-4 合理的配慮については、その実施につき「過重な負担」が生じる場合には、合理的配慮をしなくても良いということになるが、どのような場合に「過重な負担」と考えるのか。その判断要素をどう考えるか。
1-5 各行政機関等及び事業者において、障害を理由とする差別を解消するための取組として望まれる取組(職員・従業員の研修、相談・紛争処理体制の在り方など)はどのようなものがあるか。
総務省においては、「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」を改定する。
日本工業規格 JIS X 8341-3は2015年度中に改定される予定があり、その改定と障害者差別解消法の施行に対応することが望まれる。
行政機関等のウェブサイトにおいては、日本工業規格 JIS X 8341-3、総務省「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」(ただし、さらに改定された場合はその改定版)に対する理解を進める研修を実施する。
事業者のウェブサイトにおいては、日本工業規格 JIS X 8341-3に対する理解を進める研修を実施する。
行政機関等及び事業者のウェブサイトにおいては、日本工業規格 JIS X 8341-3に対応していないウェブサイトへの問い合わせ、修正に応じる窓口を設ける。
行政機関等においては、総務省「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」に基づくウェブアクセシビリティの方針を策定し、日本工業規格 JIS X 8341-3の試験を実施し、またその結果を公開する。
国においては、アクセシビリティが低く障害者の利用が困難なウェブサイトを告発する窓口を設ける。
ウェブサイトのアクセシビリティをモニタリングする。
2. 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項(2・3号関係)
2-1 対応要領に記載すべき事項として、どのようなものがあるか(例えば、不当な差別的取扱いとなる行為の具体例・合理的配慮の好事例等、相談・紛争解決体制等)。
行政機関等においては、日本工業規格 JIS X 8341-3 等級AA に準拠すること。
インターネットで公開されている行政機関等のウェブサイトが、日本工業規格 JIS X 8341-3等級AA に準拠すること。
行政機関等の職員がウェブブラウザを通じて利用する製品、サービスは、日本工業規格 JIS X 8341-3等級AAに準拠したものを調達すること。
行政機関等の職員がローカルなネットワークでのみ用いるウェブサイトが、日本工業規格 JIS X 8341-3等級AA に準拠すること。
行政機関等及び事業者が日本工業規格 JIS X 8341-3 に準拠していくための中長期スケジュールを策定すること。
例えば、当意見書の5-1.で挙げているように、海外諸国の事例では、ウェブページの内容や公開時期、ウェブコンテンツの種類などによっては、対象範囲外としたり、長期にわたる猶予期間を設けたりしているケースがある。それらを参考に、年度ごとに対象範囲を拡大していくスケジュールを提示するなどして、段階的な取り組みを促すこと。
また、特定のウェブコンテンツ技術を用いたウェブページにおいては、現時点では技術的に対応が困難なこともあり、「過重な負担」に該当するかも含めて検討が必要である。
その他、事業者については、3-1を参照のこと。
3. 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項(3号関係)
3-1 対応指針に記載すべき事項として、どのようなものがあるか(例えば、不当な差別的取扱いとなる行為の具体例・合理的配慮の好事例等、相談・紛争解決体制、主務大臣による助言・指導等に関する事項等)。
インターネットで公開されているウェブサイトが、日本工業規格 JIS X 8341-3 等級A に準拠すること。
ウェブブラウザを通じて利用する製品、サービスが、日本工業規格 JIS X 8341-3等級A に準拠すること。
事業者の労働環境で使用されるローカルなネットワークでのみ用いられる、ウェブサイトが、日本工業規格 JIS X 8341-3 等級A に準拠すること。
4. その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項 (4号関係)
4-1 相談及び紛争の防止等のための体制の整備、啓発活動、情報(具体的な相談事例、国際的動向等)の収集・整理及び提供について、どのようなことを期待するか。
総務省「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」の実施年度が、2014年度末で終了することから、これまでの行政機関等の取り組み実態を調査し、公開する。
障害者差別解消法の施行に向けて、実態調査の結果を評価し、総務省「みんなの公共サイト運用モデル改定版(2010年度)」を改定する。
総務省及び経済産業省が、事業者に向けて日本工業規格 JIS X 8341-3 の普及、啓発活動に取り組むこと。
各国のウェブアクセシビリティ政策の現状を調査すること。
4-2 障害者差別解消支援地域協議会について、どのような機能や取組を期待するか。
障害のある住民等がウェブ利用の困難について相談できる窓口を設置し、必要に応じて利用方法の講習などを実施すること。
障害者差別解消支援地域協議会には、コンピュータやウェブのアクセシビリティの専門知識をもつ者を委員として加えること。たとえば、福祉情報技術コーディネータ資格を持つ者。
5. 上記以外の事項
各国の動向
オーストラリア
オーストラリア政府は、障害者差別禁止法に基づいて政府のサイトを2012年末までに WCAG 2.0 (Web Content Accessibility Guidelines 2.0)が規定するレベルAを満たし、2014年末までにレベルAAを満たすことを Mandatory Requirement としている。
米国
米国は、障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act)、リハビリテーション法(Rehabilitation Act)508条に基づいてウェブアクセシビリティを義務付けている。ウェブアクセシビリティに関する訴訟も行われており、公共・民間ともにWCAG 2.0レベルAからレベルAAを満たすことが事実上義務付けられている。
英国
英国は、障害者差別禁止法を根拠として、Government Service Design Manual において、政府のサイトが、WCAG 2.0レベルAAに対応することを求めている。
韓国
韓国では、2008年4月に障害者差別禁止法が施行され、5年間のうちに適用範囲を段階的に拡げていき、2013年4月からは公共機関・教育機関・民間企業のすべてにウェブアクセシビリティへの対応が義務付けられている。技術基準は、WCAG2.0を元に作成されたKWCAG(Korean WCAG)2.0である。
EU
EU各国は国内法制を2014年6月までに整備し、2015年末までにWCAG 2.0に準拠するというのが、指令案の主な内容である。政府のサイトが、WCAG 2.0レベルAAに対応することを求めている。
カナダ オンタリオ州
カナダのオンタリオ州では、一定の準備期間を設けた上で、次のようにウェブアクセシビリティを義務化している。州政府機関等には、2016年にWCAG 2.0のレベルAAに準拠(ただし、一部の達成基準を除く)、さらに2020年にはWCAG 2.0のレベルAAに準拠(全ての達成基準)を求めている。また、従業員が50名を超える事業者は、2014年以降に新規作成する場合にはWCAG 2.0のレベルAに準拠、2021年には全てのウェブページをWCAG 2.0のレベルAAに準拠(ただし、一部の達成基準を除く)させることが求められている。
ニュージーランド
ニュージーランドでは、政府機関のウェブサイトに対して、2013年7月から2017年6月までの4年間でウェブサイト内での対象範囲を段階的に拡大する“Implementation schedule”を提示し、WCAG 2.0のレベルAA準拠を求めている。また、独自に定義した “archived web pages” での対応、動画への音声ガイド提供、ライブの動画へのキャプション付与などをはじめとする例外事項を細かく定めており、毎年必要に応じてその基準を見直していくことにしている。
以上