JIS X 8341-3:2010 達成基準7.2.4.1を満たす条件に関する意見募集の結果について 2013年4月22日 更新
ウェブアクセシビリティ基盤委員会 委員長
植木 真(株式会社インフォアクシア)
ウェブアクセシビリティ基盤委員会では、JIS X 8341-3:2010の達成基準7.2.4.1に関するアクセシビリティ サポーテッド情報の見直しについて、2013年1月7日(月曜日)から2013年2月1日(金曜日)にかけての間、意見の募集を行いました。その結果、3件のご意見が寄せられました。お寄せいただいたご意見を参考に、今後見解の見直しを進めて参ります。
ご意見お寄せいただいた皆様に感謝申し上げます。
意見募集の概要
意見募集の概要については、以下をご覧ください。
寄せられた意見
意見1
意見提出者
小林信次(株式会社まぼろし)
意見の内容
ご提案とおり、G1は必要ないと思います。
意見2
意見提出者
板垣宏明(特定非営利活動法人アイ・コラボレーション神戸)
意見の内容
本件について、補足付きの賛成という意見を提示いたします。 ブロックスキップについては、障害者の視点でみるとウェブブラウザや支援技術ではまだまだ利用しづらい点が多々あるように感じます。
しかし意見募集でも言及されているように、以前に比べてブラウザのカスタマイズ機能や支援技術の向上は格段にあがってきており、ウェブページは必ずしもスキップリンク(特に不可視の実装)を記載する必要はない状況であるといえるでしょう。 他にも達成基準7.2.4.1(等級A)においてG1が不要と思える事項を以下に記載します。
ウェブブラウザの標準機能で多様なスクロールやテキスト操作が可能となっていること。
必要であれば、ウェブブラウザの拡張機能としてユーザーの趣向にあったブロックスキップを実現する支援機能を開発可能であること。
「視覚障害者への影響」に解説されているとおり、h要素を辿って行く機能についても1990年に比べると見出し要素の正しいマークアップが施されているサイトも増え、支援技術によるブロックスキップが可能となっていること。
以上のことからG1については等級Aの達成基準とする程度の必要性がないように考えております。
しかし一方で、ウェブページ中にスキップリンクが明示されているページは、そうでないページに比べてアクセシブルであると考えます。「肢体不自由の利用者への影響」で言及されているキャレットブラウジングモードなどはブラウザの設定、操作としては高度であり、その機能を理解していないユーザーは未だ多いというのが現状であると推測します。
よって、例えばG1をAAAの達成基準を満たす要件として採用することも検討できるかと考えます。スキップリンクが視覚的に認識可能であって、且つその動作が十分に理解可能なテキストで提供されている場合は、これを等級Aよりも高い等級の達成基準で採用し、以ってウェブブラウザなどの高度な操作や設定について知識のないユーザーに対してもアクセシブルなコンテンツを提供できると考えます。
意見3
意見提出者
田中章仁、伊藤一真、伊藤唯、池松塑太郎、小高公聡(NTTクラルティ株式会社)
意見の内容
結論
「達成基準7.2.4.1を満たすためには、G1およびH69の両方を実装することが望ましい」
上記見解の継続が望ましいと考えます。
理由
実用面
画面読み上げソフトを利用してサイトを閲覧する際、見出しジャンプを使用して移動することが多いのは事実です。
しかし、最初の見出しが本文の先頭ではない場合も多く、特に初めて訪れたサイトでは、本文の先頭がどこなのか即座に理解できないことがあります。
そのようなとき、本文へジャンプするリンクは非常に有用な手段です。
また、ランドマークへの対応等、高機能なソフトウェアが増えていることも事実ですが、視覚障害のある利用者の多くが必ずしも最新の読み上げソフトを利用しているとは考えにくく、支援技術を頻繁にアップデート・購入できない利用者への配慮も必要と考えます。
心理面
サイトを閲覧し、まず初めに本文へのジャンプが設置されていることが分かるとそのサイトはアクセシビリティに配慮しようとしているのだなといわば、そのサイトの“気構え”を知ることができ、 安心してサイトを閲覧することができます。
時間をかけてサイトを閲覧しているうちに、アクセシビリティへの対応度は自然と分かってくるものですが、本文へのジャンプの有無はサイトにアクセスしたと同時にそれを知ることができるシンボル的な役割も持っているのではないかと考えます。
機能面
読み上げソフトによってページ内リンクが機能しないという問題は、通常のブラウザとして実装されるべき機能だと思いますので、読み上げソフト開発者側に対応を依頼すべき事柄だと考えます。
肢体不自由者の利用
スキップリンクは、現状ほとんどが視認できない状態で実装されていますので、その状態で当事者の声が上がらないからニーズがない、と判断するのは早急と考えます。
そのような便利な機能があることを知らない肢体不自由者の方がむしろ多いのではないかと考えます。
本委員会の考え方
寄せられたご意見に対する本委員会の考え方は以下の通りです。
意見2について
しかし一方で、ウェブページ中にスキップリンクが明示されているページは、そうでないページに比べてアクセシブルであると考えます。
今回、本委員会が検討しているのは「G1が7.2.4.1の達成に必須であるかどうか」という点であり、G1を実装することを妨げるものではありません。「G1を実装したほうがよりアクセスしやすくなる」と判断するサイトがあっても良く、その場合にG1を実装することは問題ありません。
「肢体不自由の利用者への影響」で言及されているキャレットブラウジングモードなどはブラウザの設定、操作としては高度であり、その機能を理解していないユーザーは未だ多いというのが現状であると推測します。
意見募集の中ではキャレットブラウジングモードについて取り上げましたが、これは一例であり、利用者の状況や障害の程度によっては、マウスキーなど、他の手段が利用されることもあります。
特定のOSやブラウザのキャレットブラウジングモードの実装が使いにくい、知られていない、ということはあり得ますが、そのことがただちに今回の意見募集の結果に影響するものではないと考えています。
また、「技術は普及しているが、機能が使いにくい、あるいはユーザーがその機能を知らない」という状況があった場合、その技術は「アクセシビリティ サポーテッド」であると言えるのか、という論点もあるかと思います。JIS X 8341-3:2010の付属書Aでは、「アクセシビリティ サポーテッド」について以下のように述べています。
b) そのウェブコンテンツ技術には,利用者が入手可能で,アクセシビリティ機能を利用できるユーザエージェントがなければならない。これは,次に挙げる四つの事項のうち,少なくとも一つを満たしていることを意味する。
そのウェブコンテンツ技術が,(HTML 及びCSS といったウェブコンテンツ技術がそうであるように,)広く配布されているユーザエージェントで元々サポートされていて,そのユーザエージェントでもアクセシビリティ機能が利用できる。
そのウェブコンテンツ技術が,広く配布されているプラグインでサポートされていて,そのプラグインでもアクセシビリティ機能が利用できる。
そのコンテンツが,例えば大学又は企業内ネットワークのような閉じた環境で利用可能であって,そのウェブコンテンツ技術が必要とし,その組織が使用しているユーザエージェントでも,アクセシビリティ機能を利用できる。
そのウェブコンテンツ技術をサポートするユーザエージェントでアクセシビリティ機能が利用できて,次に示す二つの条件でそのユーザエージェントをダウンロード又は購入可能である。
障害のない人よりも障害のある人が時間及び/又は労力がかかるようなことはない。
障害のない人と同じくらい容易に障害のある人も探して入手することができる。
ここでは入手の容易性が要件とされていますが、機能の分かりやすさ、使いやすさは要件として挙げられていません。
基本的な考え方としては、機能が提供されており、ユーザーがそれを使えれば良いということになります。
もちろん、ブラウザや支援技術が使いやすく、分かりやすくなっていることは望ましいことです。これについては、コンテンツ提供者が努力するというよりも、ベンダーによる努力が必要であると考えます。
よって、例えばG1をAAAの達成基準を満たす要件として採用することも検討できるかと考えます。スキップリンクが視覚的に認識可能であって、且つその動作が十分に理解可能なテキストで提供されている場合は、これを等級Aよりも高い等級の達成基準で採用し、以ってウェブブラウザなどの高度な操作や設定について知識のないユーザーに対してもアクセシブルなコンテンツを提供できると考えます。
ご意見としてはごもっともと思える部分もありますが、JIS X 8341-3:2010の達成基準はWCAG 2.0の達成基準と合わせています。達成基準7.2.4.1についてもWCAG 2.0の2.4.1と同等のものであり、日本国内においてこの部分を変更することは好ましくないと考えています。
実装方法と達成基準は必ずしも一対一対応するものではないため、実装方法G1を達成基準7.2.4.1以外の達成基準に当てはめるという解釈の余地はありますが、G1の実装がうまく当てはまるような達成基準は見当たりません。
意見3について
実用面
画面読み上げソフトを利用してサイトを閲覧する際、見出しジャンプを使用して移動することが多いのは事実です。
しかし、最初の見出しが本文の先頭ではない場合も多く、特に初めて訪れたサイトでは、本文の先頭がどこなのか即座に理解できないことがあります。
そのようなとき、本文へジャンプするリンクは非常に有用な手段です。
今回、本委員会が検討しているのは「G1が7.2.4.1の達成に必須であるかどうか」という点であり、G1を実装することを妨げるものではありません。
ご意見にある「最初の見出しが本文の先頭ではない場合」は、H69の適切な実装ができていないケースに該当します。H69によって7.2.4.1を達成できない場合には、G1を採用して7.2.4.1を達成することにしても構いません。
また、ランドマークへの対応等、高機能なソフトウェアが増えていることも事実ですが、視覚障害のある利用者の多くが必ずしも最新の読み上げソフトを利用しているとは考えにくく、支援技術を頻繁にアップデート・購入できない利用者への配慮も必要と考えます。
古いソフトウェアがサポートされているのは望ましいことですが、存在するすべてのユーザーエージェントと支援技術をサポートすることは難しいため、どこかで線を引かなければなりません。また、古いソフトウェアについては安全性を保障できない場合が多いことから、アップデートを促すほうが利用者にとってメリットになるとする考え方もあり得ます。
古いソフトウェアをどこまでサポートするかというポリシーは、アクセシビリティ方針に依存します。
H69に対応していない支援技術をサポートする方針とした場合には、H69の実装に加えてG1を実装することが必要になります。
心理面
サイトを閲覧し、まず初めに本文へのジャンプが設置されていることが分かるとそのサイトはアクセシビリティに配慮しようとしているのだなといわば、そのサイトの“気構え”を知ることができ、安心してサイトを閲覧することができます。
時間をかけてサイトを閲覧しているうちに、アクセシビリティへの対応度は自然と分かってくるものですが、本文へのジャンプの有無はサイトにアクセスしたと同時にそれを知ることができるシンボル的な役割も持っているのではないかと考えます。
達成基準7.2.4.1は、利用者に心理面での安心感を与えることを目的としたものではありません。利用者に対して気構えや安心感を伝えたい場合は、ウェブアクセシビリティ方針や試験結果を公開することを推奨します。
逆に、JIS X 8341-3:2010で定められた試験を実施していないサイトについて、スキップリンクの存在だけを理由に「このサイトはアクセシブルであろう」と判断されるのは望ましくないと考えています。
機能面
読み上げソフトによってページ内リンクが機能しないという問題は、通常のブラウザとして実装されるべき機能だと思いますので、読み上げソフト開発者側に対応を依頼すべき事柄だと考えます。
ご意見のように、G1の実装に対応したユーザーエージェントが増えるのは望ましいと考えます。
先の見解と重なりますが、G1に対応していない支援技術をサポートするかどうかは、アクセシビリティ方針に依存します。G1に対応していない支援技術をサポートする方針とした場合には、G1の実装に加えてH69を実装することが必要になります。
肢体不自由者の利用
スキップリンクは、現状ほとんどが視認できない状態で実装されていますので、その状態で当事者の声が上がらないからニーズがない、と判断するのは早急と考えます。
そのような便利な機能があることを知らない肢体不自由者の方がむしろ多いのではないかと考えます。
不可視のスキップリンクが存在しても、スクリーンリーダーを利用しない肢体不自由者は、フォーカスがどこにあるか認識できませんし、どこに飛ぶのかも認識できません。そのため、G1ではスキップリンクが見えている、もしくはフォーカスを移動すると見えるようになることを求めています。
しかしご意見のように、現状では、視認できない状態のスキップリンクが多く、肢体不自由者はほとんどのサイトでスキップリンクを利用できていないと考えられます。にもかかわらず、肢体不自由者からは「スキップリンクをつけてほしい」「スキップリンクは見える形で実装してほしい」という要望は聞こえてきていないように思われます。
これが今回の意見募集で述べていた主旨となります。
本委員会では、この点について当事者の声を募集する目的から、今回の意見募集を実施しました。