JIS X 8341-3:2016 解説

目次

はじめに

JIS(日本工業規格)とは

JIS(日本工業規格)とは、日本国内における工業標準化の促進を目的とする『工業標準化法』(昭和24年)に基づいて制定される国家規格である。「JIS」は"Japanese Industrial Standards"の頭文字をとったものであり、「日本工業規格」が正式名称である。

JIS X 8341-3とは

『JIS X 8341-3:2016』の正式名称は、『高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ』という。この規格でいう「ウェブコンテンツ」は、ブラウザや支援技術などのユーザエージェントを介して利用者に提供されるあらゆるコンテンツを指し、次のようなものが挙げられる。

『JIS X 8341-3:2016』は、高齢者や障害のある人を含む全ての利用者が、使用している端末、ウェブブラウザ、支援技術などに関係なく、ウェブコンテンツを利用することができるようにすることを目的としている。そのためにウェブコンテンツが満たすべきアクセシビリティの品質基準として、レベルA、レベルAA、レベルAAAという3つのレベルの達成基準が定められている。

また、『JIS X 8341-3:2016』が想定している読者は、次のように、ウェブコンテンツの企画、設計、制作・開発、確認、試験、保守・運用に関わる方たちである。

『JIS X 8341-3』改正の経緯

『JIS X 8341-3』は、2004年6月に初めて制定された。2016年の改正に至るまでの経緯は次の通りである。

改正における主なポイント

『JIS X 8341-3:2016』で変更された主なポイントは次の通りである。

ポイント1. 一致規格

旧規格では、『WCAG 2.0』をベースとして「箇条7 ウェブコンテンツに関する要件」では全く同じ達成基準を採用していたが、そのほかの箇条では旧規格独自の要求事項や記述などが見られた。

『JIS X 8341-3:2016』は、『ISO/IEC 40500:2012』の一致規格になっている。一致規格とは、対応する国際規格と一致した内容であることを意味する。つまり、『JIS X 8341-3:2016』の規格本文は、『ISO/IEC 40500:2012』や『WCAG 2.0』と同じ内容になっている。この点が、旧規格と『JIS X 8341-3:2016』の最も大きな違いである。

近年、対応国際規格があるJIS規格は一致規格とすることが基本となっている。今回の改正においては、2012年10月に対応国際規格『ISO/IEC 40500:2012』が制定されたことをふまえて、『JIS X 8341-3:2016』を『ISO/IEC 40500:2012』の一致規格とした。

一致規格としたことにより、例えばグローバル企業においては、各国、各地域、各言語のウェブコンテンツに対して同一の基準を適用することが可能になり、運用、管理における負担が軽減される。これにより、より多くのウェブコンテンツのアクセシビリティが向上することが期待される。

ポイント2. 「WCAG 2.0」日本語訳の見直し

『ISO/IEC 40500:2012』が『WCAG 2.0』をそのままの形で規格にしたため、『JIS X 8341-3:2016』を一致規格とするにあたり、同様に『WCAG 2.0』をそのままJIS規格にする必要があった。そこで、既存の『WCAG 2.0』の日本語訳を改めて見直し、意訳しすぎていた部分や言葉を補いすぎていた部分は、できる限り原文に忠実な日本語訳とした。

そのため、例えば次に挙げる用語のように、中には旧規格から変更された用語がある。カッコ内は、原文である『WCAG 2.0』で用いられている用語である。

この他にも多数の訳語が見直されているが、対応国際規格に忠実な日本語訳とするための見直しであり、特にウェブコンテンツの達成基準においては旧規格の要件を変更しているわけではない。

ポイント3. 「附属書JA(参考)」と「附属書JB(参考)」

旧規格には『WCAG 2.0』にはない独自の要求事項が「箇条6 ウェブアクセシビリティの確保・向上に関する要件」と「箇条8 試験方法」に存在していた。『JIS X 8341-3:2016』では、その旧規格独自の要求事項であったものについては、旧規格に基づいて対応を進めてきたウェブコンテンツにおいて継続した取組みが可能となるように、内容を一部見直した上で附属書(参考)で推奨事項としている。

規格票の構成

『JIS X 8341-3:2016』の規格票は、次のような構成になっている。このうち、冒頭の「序文」と「0A 適用範囲」は、対応国際規格の『ISO/IEC 40500:2012』や『WCAG 2.0」には記載されていないが、この規格の理解を促進するために箇条0Aとして追加したものである。また、「イントロダクション」については、対応国際規格では箇条番号が付与されていないが、分かりやすくするために箇条0Bとして箇条番号を付与している。

さらに、以下は『ISO/IEC 40500:2012』や『WCAG 2.0』にはないが、参考情報として『JIS X 8341-3:2016』独自に作成されたものである。規格本文ではないため、規格の要求事項ではない。

各箇条の解説

0A 適用範囲

『JIS X 8341-3:2016』の適用範囲は、旧規格と同じである。この規格でいう「ウェブコンテンツ」とは、支援技術を含むユーザエージェントによって利用者に提供されるあらゆるコンテンツを指す。この規格は、高齢者や障害のある人を含む全ての利用者が、使用している端末、ウェブブラウザ、支援技術などに関係なく、ウェブコンテンツを利用することができるようにすることを目的としている。

0B イントロダクション

『WCAG 2.0』の目的や基本的な考えかたが説明されている。ガイドラインや達成基準は、視覚、聴覚、身体、発話、認知、言語、学習及び神経の障害を含む、できるかぎり広範な障害を想定して作成されている。その多くは、加齢によって能力が変化している高齢の利用者にとってもウェブコンテンツをより使いやすくするものであるとともに、利用者全般のユーザビリティを向上させるものである。

0B.1 WCAG 2.0 ガイダンスのレイヤー

『WCAG 2.0』及びその関連文書も含めた全体像を説明している。

0B.2 WCAG 2.0 関連文書

『WCAG 2.0』を補完する主な関連文書が紹介されている。

0B.3 WCAG 2.0 における重要な用語

『WCAG 2.0』では、独自の定義で用いられている用語や新たに造り出された用語が多く用いられている。その中でも特に重要な3つの用語について説明されている。

「1 知覚可能の原則」から「4 堅ろう(牢)(Robust)の原則」まで

旧規格の「箇条7 ウェブコンテンツに関する要件」に該当する部分で、『JIS X 8341-3:2016』でも『WCAG 2.0』と同様に、4つの原則の下に、12のガイドラインがあり、その下に61の達成基準がある。

旧規格では、例えば「7.1.1.1 非テキストコンテンツに関する達成基準」と細分箇条番号の先頭に「7」が付いていたが、『JIS X 8341-3:2016』では「1.1.1 非テキストコンテンツの達成基準」となっており、『WCAG 2.0』と同じ番号になっている。

また、内容及び要件はどれも全て同じままだが、『WCAG 2.0』の日本語訳を見直したため、全体にわたって旧規格とは用語や言い回しが変更されている箇所がある。

5 適合

JIS(日本工業規格)には「JISマーク表示制度」がある。しかし、『JIS X 8341-3:2016』はこの制度の対象にはなっていない。そのため、規格の要求事項を満たしていることを示したい場合は「供給者適合宣言」を行うという方法がある。その場合は、次の規格に基づいて「供給者適合宣言」を行うことによって、『JIS X 8341-3:2016』に適合していることを示すとよい。

ただし、JIS Q 17050の全ての要求事項を満たして「供給者適合宣言」を行うのが困難な場合がある。そこで、ウェブアクセシビリティ基盤委員会では、「供給者適合宣言」を行わなくても『JIS X 8341-3:2016』への対応状況を示すことができるように、「準拠」や「一部準拠」といった対応度の表記を独自に定義している。詳しくは、『ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン』を参照のこと。

5.1 適合要件

『WCAG 2.0』が挙げているに適合要件として、次の5つを説明している。

5.2 適合表明(任意)

適合表明を行う際に明示すべき項目を挙げている。必須となる項目と任意の項目とに分かれる。

5.3 部分適合に関する記述-第三者によるコンテンツ

旧規格では、「第三者によるコンテンツ」に該当する部分を除いて試験をすることが可能とし、達成基準を満たしていない「第三者によるコンテンツ」があったとしても、そのウェブページは適合しているとみなすことができた。

しかし、『WCAG 2.0』では達成基準を満たしていない「第三者によるコンテンツ」がある場合は、そのウェブページは適合していない扱いとなる。この点において、『JIS X 8341-3:2016」は旧規格と異なるため、注意が必要である。

5.4 部分適合に関する記述-言語

もともと『WCAG 2.0』にはあったが、旧規格では除外していたため、『JIS X8341-3:2016』で新たに加わる規定となる。前述の「5.3部分適合に関する記述-第三者によるコンテンツ」と同様で、これを適用する場合には、そのウェブページは適合していないことになるため、注意が必要である。

附属書A(規定)用語集

全部で83の用語について定義している。一般的な文言であっても『WCAG 2.0』独自の定義によって用いられている用語があるため、『JIS X 8341-3:2016』を正しく理解する上で、この用語集で『WCAG 2.0』における定義を確認することが不可欠である。便宜上、『JIS X 8341-3:2016』では各用語に対してA.1~A.83までの番号を付与している。

附属書B(参考)謝辞

『WCAG 2.0』を作成するにあたり、WCAGワーキンググループに何らかの形で参加していた方々の一覧。

附属書C(参考)参考文献

『WCAG 2.0』の参考文献の一覧。

附属書JA(参考)ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項

参考情報であり、規格の要求事項ではない。旧規格の「箇条6 ウェブアクセシビリティの確保・向上に関する要件」で『WCAG 2.0』にはない独自の要求事項だったものをベースにして、内容を若干見直している。

なお、この「附属書JA(参考)ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項」に基づいて、「ウェブアクセシビリティ方針」を文書化する際は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が独自に作成した「ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン」が参考になる。

附属書JB(参考)試験方法

参考情報であり、規格の要求事項ではない。旧規格の「箇条8 試験方法」で『WCAG 2.0』にはない独自の要求事項だったものをベースにして、内容を若干見直している。

なお、この「附属書JB(参考)試験方法」に基づいて試験を実施するにあたっては、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が独自に作成した「JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン」が参考になる。

解説

参考情報。原案を作成したウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)のJIS X 8341-3改正原案作成委員会およびJIS X 8341-3改正原案作成分科会が執筆した『JIS X 8341-3:2016』の解説。

以上


作成者:ウェブアクセシビリティ基盤委員会

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