JIS X 8341-3の改正に関する準備──ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会6
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会6 主査
株式会社ミツエーリンクス 中村 直樹
ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会6とは
ウェブアクセシビリティ基盤委員会(Web Accessibility Infrastructure Committee。以下、WAIC)は、ウェブアクセシビリティのJIS規格である「JIS X 8341-3」の原案作成団体です。WAICの作業部会6(以下、WG6)は臨時の作業部会として、JIS X 8341-3の改正に関する準備作業を担当しています。新しいJIS X 8341-3は、W3C (World Wide Web Consortium)の勧告(Recommendation)である「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2」と同等の内容にすることを念頭に置いて、準備を進めています。
JIS X 8341-3と他の規格類との関係性
JIS X 8341-3:2016は、W3Cが発行するWCAG 2.0が国際規格化された、ISO/IEC 40500:2012と技術的に同一な規格です。WCAG 2.0は2008年に発行された技術標準ですが、二度の更新が行われ、現在はWCAG 2.2という技術標準が最新のW3C勧告になっています。現在、W3Cは、WCAG 2.2をISO/IEC 40500の改訂版としてISO/IECに提案しようとする取り組みを行っています。JIS改正の現在想定されているシナリオとしては、ISO/IEC 40500がWCAG 2.2と同等の内容に改訂された後に、JISも改訂版のISO/IEC規格にあわせて改定するというものになります(図1も参照)。
W3CがいつISOにWCAG 2.2に基づく改訂を提案するのかが、WCAG 2.2の国際規格化、そしてJIS改正のスケジュールの鍵を握ってくることになります。
WAICではWG6が窓口となって、ISO/IEC規格の改訂に向けた準備状況についてW3Cに確認を行っています。9月時点では、WCAG 2.2のISOへの提案を、10月中に行う意向であることを確認しています。もしかすると、このメールマガジンの記事を皆さんが読んでいる頃には、すでにISOに提案が行われている状況になっているかもしれません。
サブグループの活動紹介
これまで見てきたようにJIS改正のスケジュールについて、国際規格の改訂などに依存する部分が残ってる状況ではありますが、WAICではWG6を中心にJIS改正を見据えた準備活動を行っています。WG6では3つのサブグループ(Sub Group、以下SG)を設けて準備を進めていますが、ここではその概要を説明します。
SG1
SG1は、規格本体の見直しの準備を担当しています。JIS X 8341-3:2016の規格本体は、国際規格であるISO/IEC 40500の翻訳版となっています。翻訳の品質の観点から、規格本体の見直しの余地があります。改正を予定するJISは、WCAG 2.2を念頭にしていますから、WAICで公開しているWCAG 2.2の日本語訳を見直すことによって、改正JISの翻訳の質を高めることにつながると考えています。
現在SG1で行っている作業は、達成基準の名称の見直しです。WAICのサイトで公開しているWCAG 2.2の日本語訳をJISの表記ルールと一致させることと、原文により忠実な日本語訳にするという2つの観点から検討を進めています。
なお、SG1の作業は、翻訳作業部会が利用しているGitHub上で記録されており、GitHubのアカウントを作成することで誰でもコメントをすることができます。詳しくは翻訳作業部会の記事を参照してください。
SG2
JIS X 8341-3:2016には、日本独自の参考情報として、「附属書JA(参考)ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項」、「附属書JB(参考)試験方法」が存在します。SG2は、これら附属書JA、JBの見直しの準備を担当しています。
附属書JAについては、より広範な用途、組織、制作プロセスなどをカバーすることを目指した検討を進めています。
附属書JBについては、附属書JBに基づいた試験の理解、実施をより円滑に進められるよう、WAICが提供している「試験実施ガイドライン」などの各種ガイドラインとの間で情報の整理を行う予定です。今回の改正では、附属書JBにおいて試験の骨子をまとめ、その骨子に従って各種ガイドラインで具体的な実施方法や例を提供できるようにする形での整理を検討しています。
SG3
最後にSG3では、規格票の提供形態の一つであるPDFのアクセシビリティ改善の検討を行っています。規格票を購入した場合に入手可能な音声読み上げPDFは、見出しなどの文書構造を含まないファイルであり、スクリーンリーダーなどの支援技術を使用しているユーザーにとって、文書として閲覧するに当たってのアクセシビリティが十分に確保されていないという現状があります。そこで、障害者差別解消法の企図する「環境の整備」の観点も踏まえて、スクリーンリーダーのユーザーが購入した規格票を平等にアクセシブルな形で参照できるようにすべく技術的な観点で調査を行い、改善に向けた提案をするための検討を進めています。
おわりに
WAICでは作業部会6および各サブグループを中心にJIS改正に向けた作業を進めていきます。JIS改正の動向に進展がありましたら、随時WAICのサイトで発信していきたいと考えております。
- この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
- この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。