アクセシビリティを考慮したオンラインミーティングに必要な3つの要素

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC) 作業部会4 委員
株式会社SmartHR 辻勝利

ウェブアクセシビリティ基盤委員会 作業部会4の役割

ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)作業部会4の私たちの取り組みは、ウェブアクセシビリティの関連文書を原文である英語から日本語に翻訳し、国内でウェブアクセシビリティの向上に取り組む方々がよりわかりやすい形で関連文書を公開することにあります。近年は10名ほどのメンバーが、WCAG 2.2ARIA Authoring Practices Guideの翻訳に取り組んでおり、翻訳結果はWAICのサイトで公開しております。

私たちは毎月オンラインでミーティングを行い、それぞれのメンバーが取り組んできた作業内容を報告し合い、WCAG関連文書の翻訳で直面した課題について議論しています。

今回の記事ではとくに、それぞれ遠隔地で活動する私たちがどのようにミーティングを行っているのかを紹介することで、昨今定着してきたオンラインミーティングでアクセシビリティの観点から気をつけるポイントを皆様と共有し、日々の業務に役立てていただければと考えております。

参考情報

背景

私がこの作業部会に委員として参加した頃、オンラインミーティングには会議ツールとしてSkypeを用いていました。議事録はGoogleドキュメントで作成されており、会議の参加者はリアルタイムに更新内容を手元で確認しながら会議に参加することができたものの、Skypeのチャット機能を使って共有される情報は、私が使用しているスクリーンリーダーでは容易に確認できない問題がありました。

そこで、チャットでリアルタイムに送られてくるメッセージがスクリーンリーダーで比較的簡単に確認できる、Google Meetを会議ツールとして提案しました。Google Meetには、リアルタイムで会議の字幕を生成して表示する機能もあり、音声を聞きながら会議に参加できない状態であっても、会議の内容を確認することができる点も優れています。

今回はとくに、日常的にスクリーンリーダーを使っている私の立場で、よりアクセシブルなオンラインミーティングを実現するために検討していただきたい事柄を紹介します。

アクセシブルなオンラインミーティングを遂行するために確認したい3つのポイント

昨今、様々なコミュニケーションツールが登場しており、オンラインでミーティングを実施するハードルは下がっています。会議の実施方法をしっかり検討することで、参加者がどこにいるのか、参加者にどのような特性があるのかを考慮した会議が実現できる環境は整いつつあります。

それでは、より多くの参加者が参加可能なオンラインミーティングを実現するためには、どのようなことを意識すれば良いのでしょうか。

参加者全員が使い方に慣れている会議システムを使う

世の中には様々な会議システムがあり、アクセシビリティを考慮して開発されているものも少なくありません。

私が使用した限りでは、Zoom、Google Meet、Microsoft Teamsなど、選択肢はいくつかあるものの、スクリーンリーダーでの使用だけを考えても、それぞれのツールが得意としていること、苦手なことがあるようです。

会議で使用するツールがどのようなアクセシビリティ機能を持っているかを主催者が事前に確認しておくことはもちろんですが、会議参加者全員がそのツールを十分に活用できるだけのスキルがあるかを確認することも、オンラインミーティングを成功させるポイントだと言えそうです。

参考情報

スクリーンリーダーのユーザーのように、ミーティングに参加する際、自分のマイクやカメラを素早く制御するためにショートカットキーを使う参加者がいることがあります。ミーティングの主催者側で、参加者にアクションを求めるときにショートカットキーの情報も一緒に伝えることで、参加者はより早く反応できる可能性があります。

Zoomでミーティングを行っている場合、例えば「ご意見のある方は手を上げてください」と伝えるだけでなく、「ご意見のある方は手を上げるボタン、またはAltキーとYキーを押して手を上げてください」と伝えるだけで、より多くの参加者が手を上げやすくなる可能性があります。

参加者がリアルタイムに確認できるコミュニケーション手段を使う

会議を進行する中で、リアルタイムに参加者とコミュニケーションを取る場合があります。議題の詳細を説明する資料や議事録の確認、関連情報のチャットでの共有などが該当します。

前提として、会議で資料を使用する場合は、事前に参加者に共有することが望ましいのは言うまでもありません。会議の主催者だけでなく、参加者自身も資料を確認して、その会議に備えることができるからです。

資料の事前共有は、スクリーンリーダーを使っている会議参加者にも有益です。基本的に、会議の音声とコンピューターの読み上げ音声の両方を耳で聞きながら会議に参加するため、リアルタイムに資料を読みながら会議に参加するのはあまりよい方法とは言えません。会議の発言を集中して聞いていれば、資料の音声での読み上げを聞いている時間はありませんし、資料で詳細情報を探していると、その間に次の議題に移ってしまうこともよくあります。

主催者が会議の直前まで資料を準備して、画面にその資料を表示すれば参加者は確認できるのだから問題ないとお考えの方には、是非、会議をおこなう目的を今一度検討いただきたいと思います。

会議で使用する資料を作成するときにどのような点に気をつければいいかについては、ウェブアクセシビリティの考え方によく似ています。見出しやリストなどの文書構造を適切に使用する、画像を使用する際は代替テキストもセットで提供するなど、ウェブアクセシビリティのガイドラインを参考に資料を作っていただければ良いと思います。

画面を見なければ参加できないような進め方をしない

ミーティングで使用する資料がアクセシブルな状態で準備できたとしても、意外と多いのが実際のミーティングで参加者が画面を見ていることを想定した発言があることです。

例えば、年ごとに色分けされたグラフを使用して会議を進める場合、「昨年の売り上げは黄色い棒グラフで表しており、青で表している今年の棒グラフよりも多いことが理解できます。」のように発言されることがあります。もちろん、画面上の棒グラフを見ることができる参加者であれば、この発言を聞いただけで今年の売り上げが昨年のものよりもどれくらい減っているかが理解できるかと思います。

しかし、私のような画面を見ることのできない参加者はどうでしょうか?

発言内容から、去年よりも今年の方が売り上げが減っていることは想像できますが、どれくらい減っているのかを把握することはできません。

このような場合、発言者の側で去年の売り上げと今年の売り上げを口頭で共有するだけで、発言者が伝えようとしている内容がわかるようになります。このように、参加者の中に画面を見ることのできない人がいるかもしれないことを考慮しながら発言するだけで、オンラインミーティングはより多くの人にとって参加しやすいものになる可能性があるのです。

別の例として、参加者同士がオンラインのホワイトボードのようなツールを使って意見を出し合うような場面があると思います。赤の付箋はAさん、青の付箋はBさん、ピンクの付箋はCさんといったように、発言者によって色を変えることで、後で確認するときに誰の書いたものかがわかるような進め方をする場合があります。

このような場合、例えばスプレッドシートを使用して共同作業することで、スクリーンリーダーを使っている参加者も意見が書きやすくなる可能性があります。AさんはシートのB列に、BさんはシートのC列に、CさんはD列にそれぞれコメントを書いてくださいと促すことで、参加者が同じシート上にそれぞれの意見を書くことができるようになり、必要であれば他者の意見も確認できるようになるのです。

最後に

今回ご紹介したとおり、オンラインミーティングを実施するためには、そのアクセシビリティについてもしっかり検討する必要があります。

スクリーンリーダーなどの支援技術やコミュニケーションツールのアクセシビリティ向上など、アクセシブルなオンラインミーティングを実現する仕組みは整いつつありますが、準備や会議の進行などの運用面で考慮すべきことも少なくはありません。

全ての会議参加者が議論に参加して実りのある会議を実現できるよう、そのアクセシビリティの向上についても皆さんに考えていただくきっかけになりますと幸いです。

  • この文章は、一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)のメールマガジンへ掲載することを目的に書かれたものです。
  • この文章は、執筆者個人の見解に基づくものであり、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の公式的な見解を示すものではありません。
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