意図
この達成基準の意図は、利用者に関する情報を収集するフォームの入力の目的を、プログラムによる解釈を可能にして、その結果、ユーザエージェントが異なるモダリティを使用し、その目的を抽出して利用者に提示できるようにすることである。特定のフィールドで期待される特定の種類のデータをプログラムで宣言する機能により、特に認知障害を持つ人々にとって、フォームへの入力が容易になる。
適切なラベルと説明は、利用者が入力フォームフィールドの目的を理解するのに役立つが、利用者は、特定の種類の情報を収集するフィールドを、さまざまなモダリティに合わせて曖昧さがなく一貫性がありカスタマイズ可能な方法で (ユーザエージェントのデフォルトで、又は支援技術の助けを借りてのどちらかで) レンダリングできるという利点がある。
一部の入力フィールドでは、type 属性が既に入力フィールドの意図を広く指定する方法を提供している (例えば input type="tel" や input type="mail" 、input type="password" など) 。しかし、これらは入力の種類を説明する非常に広範なカテゴリに過ぎないが、特に利用者固有の入力フィールドに関するものであるため、必ずしもその目的は説明されていない。例えば、 type="email" はそのフィールドがEメールアドレス用のフィールドであることを示すが、その目的が利用者のEメールアドレスを入力するためのものなのか、他の人のEメールを入力するためのものかは明確にしない。
この達成基準は WCAG2.1 勧告のセクション7にある、ユーザインタフェースコンポーネントの入力目的の種類を定義し、プログラムによって特定可能でなければならない。これらの利用者の入力目的が存在し、それを技術がサポートしている場合、フィールドの目的はプログラムによって特定可能でなければならない。
HTML の autocomplete 属性は、一定数の特定の明確に定義された固定値のみを受け入れる。これにより、例えばコンテンツ制作者が特定のタイプの名前 (名前 (autocomplete="name")、 Given Name (autocomplete="given-name")、 Family Name (autocomplete="family-name")、に加えてユーザ名 (autocomplete="username")及びニックネーム (autocomplete="nickname")) を指定できるようにすることで、type 属性よりもよりきめ細かい定義又は目的の特定が可能になる。
この所定の定義の分類法を採用して再利用することで、ユーザエージェントと支援技術は、異なるモダリティで利用者に入力の目的を提示できる。例えば、読むのが困難な利用者を助けるために、支援技術は入力フィールドの隣に見慣れたアイコンを表示してもよい。誕生日ケーキのアイコンを autocomplete="bday" の入力フィールドの前に表示してもよいし、電話のアイコンを autocomplete="tel" の入力フィールドの前に表示してもよい。
この分類法を再利用することに加えて、 autocomplete 属性を使用してこの達成基準を満たす場合、ブラウザ及び他のユーザエージェントは、ブラウザに保存された過去の利用者の入力に基づいてこれらのフィールドを自動補完して正しいコンテンツを提案及び「自動入力」できる。一般的な入力目的のより詳細な定義、例えば「Birthday」 (autocomplete="bday") を定義することによって、ブラウザはこれらの各フィールド (利用者の誕生日) にパーソナライズされた値を保存できる。利用者は情報を入力する必要がなくなり、代わりに入力値を確認又は必要に応じてフィールドの値を変更できる。これは記憶の問題、失読症、その他の障害を持つ利用者にとって著しい恩恵である。autocomplete の値は言語に依存しないため、ユーザ入力フィールドを視覚的に特定するために利用されるテキスト (ラベル) に馴染みのない利用者は、用語の固定された分類法によって、その目的を一貫して特定できる。
一つの入力フィールドが二つの異なる種類の入力目的を受け入れ (ユーザ名/利用者の電子メールフィールドを兼ね合わせるような)、かつ使用されている技術で複数の目的の値を定義できない場合、どちらか一方の値を提供する、又は入力目的の指定を完全に省略するのが妥当である。
他のメタデータフォーマットに対するユーザエージェントと支援技術のサポートが成熟すると、入力フィールドの目的を特定するために HTML の autocomplete 属性に加えて、又はその代わりに Personalization Semantics Content Module のようなメタデータスキームが使用される。それらのメタデータスキームはまた、コンテンツ制作者が提供した入力ラベルを特定して、入力のラベルづけの代わりに使用される定義済みの語彙又は記号に一致させる自動適応もサポートできる。
メリット
- この達成基準を満たすために autocomplete 属性が使われるとき、言語及び記憶に関連した障害を持つ人々、又は、遂行機能及び意思決定に影響を与える障害を持つ人々が、ブラウザが個人情報 (名前や住所などの) を自動入力することで恩恵を受ける。つまり、利用者がそれらの情報を記憶する必要がない。
- 脳性麻痺、脳卒中、頭部損傷、運動ニューロン疾患又は学習障害を持つ人々は、コミュニケーションのために画像を好むことがある。彼らは、フィールドの目的を視覚的に伝えるために、入力フィールドにアイコンを追加する支援技術を使用できる。
- 運動障害を持つ人々はまた、フォームを埋めるときに手入力の必要性を減らすことで恩恵を受ける。
事例
- 自動入力を使用したコンタクトフォーム
コンタクトフォームは、利用者のブラウザに保存されている自動入力の値から、名前、郵便番号、市町村、番地、電話番号、電子メールアドレスの各フィールドに自動入力する。支援技術は、個別の入力フィールドを特定するためのカスタマイズされた方法を提供する。例えば、フィールドの目的を視覚的に伝えるために、利用者に馴染みのある記号/アイコンの組み合わせを描画するなどの方法である。 - 別々の請求先住所と配送先住所からの注文
製品注文フォームは、autofill の詳細トークン「billing」と「shipping」を使用して、請求先住所の住所フィールドと別の配送先住所の住所フィールドを入力する。 - アイコンを使ったコンタクトフォーム
アイコンを追加するブラウザプラグインは、入力目的を視覚的に特定するために、人の名前、自宅住所、電話番号及び電子メールアドレスを表すアイコンを挿入する。
関連リソース
リソースは、情報提供のみを目的としており、推奨を意味するものではない。
達成方法
この節にある番号付きの各項目は、WCAG ワーキンググループがこの達成基準を満たすのに十分であると判断する達成方法、又は複数の達成方法の組み合わせを表している。しかしながら、必ずしもこれらの達成方法を用いる必要はない。その他の達成方法についての詳細は、WCAG 達成基準の達成方法を理解するの「その他の達成方法」を参照のこと。
十分な達成方法
失敗例
以下に挙げるものは、WCAG ワーキンググループが達成基準の失敗例とみなした、よくある間違いである。
重要な用語
障害のある利用者の要件を満たすために、主流のユーザエージェントが提供する機能を超えた機能を提供するような、ユーザエージェントとして動作する、又は主流のユーザエージェントと共に動作するハードウェア及び/又はソフトウェア。
支援技術が提供する機能としては、代替の提示 (例: 合成音声や拡大表示したコンテンツ)、代替入力手法 (例: 音声認識)、付加的なナビゲーション又は位置確認のメカニズム、及びコンテンツ変換 (例: テーブルをよりアクセシブルにするもの) などを挙げることができる。
支援技術は、API を利用、監視することで、主流のユーザエージェントとデータやメッセージのやりとりをすることが多い。
主流のユーザエージェントと支援技術との区別は、絶対的なものではない。多くの主流のユーザエージェントは、障害のある個人を支援する機能を提供している。基本的な差異は、主流のユーザエージェントが障害のある人もない人も含めて、広く多様な利用者を対象にしているのに対し、支援技術は、特定の障害のある利用者という、より狭く限られた人たちを対象にしているということである。支援技術により提供される支援は、対象とする利用者に特化した、よりニーズに適したものである。主流のユーザエージェントは、プログラムオブジェクトからのウェブコンテンツの抽出、マークアップの識別可能な構造への解釈といった、重要な機能を支援技術に対して提供する場合がある。
この文書の文脈において重要な支援技術としては、以下のものが挙げられる:
- 画面拡大ソフト及びその他の視覚的な表示に関する支援技術。視覚障害、知覚障害、及び読書困難などの障害のある人が、レンダリング後のテキスト及び画像の視覚的な読みやすさを改善するために、テキストのフォント、サイズ、間隔、色、音声との同期などを変更するのに使用している。
- スクリーンリーダー。全盲の人がテキスト情報を合成音声あるいは点字で読み取るために使用している。
- 音声変換ソフトウェア。認知障害、言語障害、及び学習障害のある人が、テキストを合成音声に変換するために使用している。
- 音声認識ソフトウェア。何らかの身体障害のある利用者が使用することがある。
- 代替キーボード。特定の身体障害のある人がキーボード操作をシミュレートするのに使用している (ヘッドポインタ、シングルスイッチ、呼気・吸気スイッチ、及びその他の特別な入力デバイスを使った代替キーボードを含む)。
- 代替ポインティングデバイス。特定の身体障害のある人がマウスポインタとボタンの動きをシミュレートするのに使用している。
支援技術を含む様々なユーザエージェントが抽出でき、利用者に様々な感覚モダリティで提示できるような形のデータがコンテンツ制作者によって提供されたとき、そのデータがソフトウェアによって解釈されること。
マークアップ言語で、一般に入手可能な支援技術が直接アクセスできる要素と属性から解釈される。
非マークアップ言語の技術特有のデータ構造から解釈され、一般に入手可能な支援技術がサポートするアクセシビリティ API を通じて支援技術に提供される。
ウェブコンテンツを取得して利用者に提示するあらゆるソフトウェア。
ウェブコンテンツの取得、レンダリング及びインタラクションを支援する、ウェブブラウザ、メディアプレーヤ、プラグイン、及びその他のプログラム (支援技術も含む)。