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コラム

正しい理解のもとに、入札公告や仕様書の作成を

2012年12月7日
ウェブアクセシビリティ基盤委員会 委員長
植木 真(株式会社インフォアクシア)

国や地方自治体等の公共分野のウェブサイトにおいては、総務省の「みんなの公共サイト運用モデル(2010年改定版)」でJIS X 8341-3:2010対応の目安が示されていることもあり、ウェブサイトの規模を問わずにその取り組みが進められています。最近、各地の地方自治体から出されている、JIS X 8341-3:2010対応のための入札公告や仕様書を目にする機会が増えてきました。今回は、JIS X 8341-3:2010対応を正しい理解のもとに実践していただけるように、十分に検討していただきたいことについて書いてみたいと思います。これから準備をされる国や地方自治体等の担当者の皆さんの参考になれば幸いです。

受発注者双方にとってマイナスにならない入札参加資格

つい最近、次のような入札参加資格を挙げた入札公告を見かけました。

入札参加資格

過去に20,000ページ以上の規模であるウェブサイトの全ページを対象とした、JIS X 8341-3:2010に基づくアクセシビリティ検証業務の実績を有する者であること。

この入札公告では、入札参加資格として20,000ページ以上のウェブサイトの全ページを対象とした検証業務の実績があることを挙げています。ここでいう「検証業務」というのが、具体的にどのような「検証業務」を想定しているのかにもよりますが、この例にあるように「JIS X 8341-3:2010に基づくアクセシビリティ検証業務」というのであれば、チェックツールによる機械的なチェックだけではなく、人間による判断も含まれると解釈するのが妥当です。

そして、「20,000ページ以上の規模であるウェブサイトの全ページを対象」ということは、そのまま文字通りに解釈すれば、少なくとも20,000ページの検証を行った実績があるというのが入札参加資格であることになります。そうだとした場合、20,000ページものウェブページを、チェックツールだけでなく人間による判断も含めて検証したことのある事業者が、果たしてどれだけ存在するでしょうか。ウェブアクセシビリティ基盤委員会にも、アクセシビリティ検証業務の実績を有する企業等が参加していますが、おそらく皆無ではないかと思います。

例えば、ウェブサイトのリニューアル業務であれば、同程度の規模のウェブサイトの構築実績を入札参加資格とすることは妥当かもしれません。しかし、こと「JIS X 8341-3:2010に基づくアクセシビリティ検証業務」に限っていえば、入札参加資格として同程度の規模のウェブサイトでの実績の有無というのは必要ではありません。

「JIS X 8341-3:2010に基づくアクセシビリティ検証業務」というのを正しく理解している事業者であれば、この入札参加資格を満たすことは相当困難であることは容易に理解できます。また、そのような事業者がコストを見積もれば、目を疑うような金額になるはずです。もし機械的なチェックだけということであれば、そのように明記すべきでしょう。それでもかなり敷居が高いですし、この入札参加資格を満たせる事業者はかなり限定されてしまいます。必要以上に高いレベルを要求する入札参加資格によって、アクセシビリティ検証業務に十分なスキルと実績を有する事業者のほとんどが応札できないとしたら、それは入札公告を出す側にとっても、応札したい事業者にとってもマイナスではないでしょうか。

限られた予算を有効活用できる業務内容

国や地方自治体等のウェブサイトに対しては、総務省の「みんなの公共サイト運用モデル(2010年改定版)」で、JIS X 8341-3:2010対応の目安が次のように提示されています。

期限と達成等級の目安

既に提供しているホームページ等
  • 2012 年度末まで 「ウェブアクセシビリティ方針」策定・公開
  • 2013 年度末まで JIS X 8341-3:2010 の等級A に準拠(試験結果の公開)
  • 2014 年度末まで JIS X 8341-3:2010 の等級AA に準拠(試験結果の公開)
ホームページ等を新規構築する場合
  • 構築前に 「ウェブアクセシビリティ方針」策定
  • 構築時に JIS X 8341-3:2010 の等級AA に準拠(試験結果の公開)

これに沿うように、「ウェブアクセシビリティ方針」の策定に向けた取り組みが進んでいるようです。JIS X 8341-3:2010の「6.1 企画」では、次の二つの要件が挙げられています。

  • ウェブアクセシビリティ方針を策定し、文書化すること
  • ウェブアクセシビリティ方針には、目標とするウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級を含めること

そして、ウェブサイトであれば、そのウェブアクセシビリティ方針をサイト上で公開することが推奨されています。

この「ウェブアクセシビリティ方針」を文書化するための業務に関する仕様書で、次のような業務内容を挙げているものを見かけました。

業務内容

(ア)検証対象

○○市ホームページ(http://www.city.xxx.lg.jp/ドメイン内)の、リンクをたどってアクセス可能な全ページとする。(外部リンクを除く)

ここで検証業務を挙げているのは、目標とする等級や対象範囲を見定めるために、まずは現状を把握しておきたいということだと思われます。ただ、その場合も全ページの検証を行うというのは、委託する業務内容としては過剰な条件になってしまうことがあります。例えば、「ウェブアクセシビリティ方針」を策定するために現状を把握することが目的であれば、多くても主要なページを100ページ程度選定して検証すれば、現状把握は十分に可能だと思われます。公共分野のウェブサイトに限らず、アクセシビリティ確保に困難を伴うケースが多いものとして、PDFファイルや動画コンテンツがあります。これらについても、主要なものをピックアップして検証すれば、現状の把握は十分に可能です。あるいは、PDFファイルや動画コンテンツに対して、どのようなガイドラインやルールがあるのかを確認するだけでも、現状は把握できるでしょう。

また、これとよく似た別の仕様書では、約15,000ページあるウェブサイトを全面リニューアルするにあたり、ウェブアクセシビリティ方針を策定するために、やはり全ページを対象とした検証を行うという業務内容が提示されていました。リニューアルすることが決まっているのであれば、既存のウェブサイトの全ページを検証する必要はほとんどないと思われます。この場合も前述の通り、主要なページを対象に行えば十分でしょう。約15,000ページも検証するには、やはり相当なコストがかかってしまいます。最小限の費用で最大の効果を得るためにも、本当に必要な作業かどうかを検討していただき、限られた予算を有効に活用して、よりレベルの高いアクセシビリティ確保につなげていただくことを期待します。

JIS X 8341-3:2010の正しい理解と実践を

例に挙げた入札公告や仕様書は、それぞれのサイトの現状等をふまえて作成されたものかもしれません。しかし、特にこれらの事例のような要件が本当に必要とされるのは、かなり特殊なケースではないかと思います。入札参加資格として必要以上の実績を求めることや目的を達成するために必要以上の業務を委託することは、発注する側にとってはコスト負担が増すだけでなく、正しい理解のもとに業務を遂行できる事業者に応札してもらう機会を損失することにもなります。

JIS X 8341-3:2010対応の発注に際しては、同類業務を発注した他の地方自治体等の入札公告や仕様書はあくまでも参考扱いとしていただき、それぞれの事情を勘案して要件を判断されるのが望ましいものと思われます。ただ模倣するだけで、いつしか「JIS X 8341-3:2010対応には、方針を策定するだけでも相当の予算が必要だ」というような誤った認識が広まらないことを切に願います。

ウェブアクセシビリティ方針については、前述の通り、総務省の「みんなの公共サイト運用モデル(2010年改定版)」にて、2012 年度末までに策定し公開することが目安とされています。そのため、これから年度末にかけて、公共分野のウェブサイトにおけるウェブアクセシビリティ方針策定の入札公告が増えてくると思いますが、是非とも正しい理解のもとに、入札参加資格や委託する業務内容を検討していただきたいと思います。もし、JIS X 8341-3:2010対応の調達仕様書等を作成される際に疑問点などございましたら、当委員会(waic@ciaj.or.jp)宛にお気軽にお問い合わせください。

最後に、当委員会でも「ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン」や「JIS X 8341-3:2010対応発注ガイドライン」を提供しています。正しい理解と実践のために、これらもご参考にしていただければ幸いです。